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森のようちえん LittleTree代表/野村 直子さん

野村 直子さん
「子どもの育ちは、みんなの未来」
Profile

野村 直子さん/森のようちえん LittleTree代表
日本の私立保育園やカナダのチャイルドケアセンターなどの国内外での保育経験と、北海道での自然ガイド、自然学校での自然体験活動指導者など、子どもと自然に関わり約17年。現在、横浜市で「もあな☆ちいさな木」という保育室の園長と保育者向け研修講師として活動中。「森のようちえん」という子育てを通して、自然の楽しさ、心地よさ、子育ての楽しさ、面白さなどを伝えている。
http://m-littletree.com


「森のようちえん」という子育て

木に開いた穴を不思議そうにのぞき込む子どもたち きれいな紅葉を取ろうとしている子 
木に開いた穴を不思議そうにのぞき込む子どもたち きれいな紅葉を取ろうとしている子 

 「森のようちえん」を知っていますか?

 デンマークの1人の母親から始まったといわれる子育ての手法です。自然の中で子どもたちをのびのびと育てる幼児教育で、「乳幼児の自然体験活動」とも呼ばれています。自然の中で子どもたちは多様な体験をします。自然と一言でいっても、アルプスの山々のような壮大な自然から、都市公園や道端にある身近な自然などと幅広いです。

 私は、横浜市で小さな保育室の園長をしており、「森のようちえん」の手法で保育をしています。毎日、近くの緑道へ行き、自然の中で過ごし、雨でも雪でも、暑くても寒くても外へ出かけます。その中で子どもたちは、雨の楽しさや冷たさを感じます。雪の日は陽に光る雪の美しさや、手がビリビリとする冷たさを知ります。自然を肌で感じる体験を重ねて、感じる心が育まれます。

 また、子どもたちは自然の中で小さなチャレンジを積み重ねます。子どもはちょっとした段差をジャンプしたり、わざと不安定な場所を歩いたりするのが大好きです。そのような場所が自然にはあふれています。急な崖をよじ登った達成感。時にはうまく登れずに涙が出てくるほどの悔しさ。成功や失敗を繰り返し、心も身体も強く、たくましく成長していきます。大人は何も強制しません。子どものやりたい気持ちを大切にし、安全に配慮しながら見守るだけです。途中で断念しても、チャレンジしたことをたたえます。大人が安全な場を作り、子どもたちは自由にチャレンジし、自信をつけていきます。

 自然の中でのたくさんの遊びを通し、「感じる」ことや「自分で考える」ことを身につけます。「何して遊ぶの?」と大人に問うのではなく、「ぼくはこれをするんだ」「私はここで遊ぶの」と言える子どもになっていきます。こうして常に自分で考える子どもたちは、本当に遊びの天才です。昔から「遊びは子どもの仕事」といわれてきました。その遊びの中にこそ、個々の成長を促す要素が含まれます。子どもには何もないところから想像する力があり、それを形にする創造する力があります。そして、創造は他の子と一緒に創り上げるということが含まれますので、自然とコミュニケーション力がついてきます。

 子どもたちに教えるものは何もありません。すでに子どもはさまざまな力を持って生まれています。その力を引き出していく子育てが自然の中では簡単にできます。そして大人も一緒に楽しめます。それが「森のようちえん」です。

新しい保育・教育のカタチ

急な土手を登った後に滑り降りて大満足な子どもたち
急な土手を登った後に滑り降りて大満足な子どもたち

 一昔前の高度経済成長の時代は、会社を先導するリーダーや上司の指示をどんどんこなす人材が求められていました。しかし、今は、自分で仕事を創り出せる人材、自分で考えて行動する人材が求められています。

 時代は変わっても、教育だけは高度経済成長期やバブルの時代から変わらないやり方です。国が定める教育や保育の指針は素晴らしい理念が掲げられていますが、実際の教育や保育を見てみると、昔のやり方の「概念教育」が多く残っています。「概念教育」は何か知り、できるようになることを目指し、頭で理解させることに力を注ぐ教育です。

 例えば「お友だちとケンカをしてはいけません」と教えることです。教えられて概念的に「ケンカはいけない」と知っている子どもは、自分の中に出てきた「怒り」を体験できません。その「怒り」は悪いこととしてしまうのです。子どもたちはケンカの中で、多くのことを学びます。「怒り」を表現すること、その結果、叩いてしまうという行為になるかもしれません。でも、人を叩いてしまった心の痛みや、叩き返されて、叩かれる痛みを学ぶかもしれません。

 以前、こんなことがありました。2人の子どもが木の棒をめぐって、「これで遊びたい!」とつかみ合いました。お互いの気持ちをぶつけ、大泣きし、片方の子が棒をひったくり逃げました。でも、しばらくすると、その子は戻って来て「終わったよ」と持ってきました。もう一方の子は「ありがとう」と涙を拭きながら受け取る…そんな場面でした。

 その子は棒は勝ち取ったけど、気分は良くなかったのでしょう。泣いていた子も、棒をもらって素直に「ありがとう」という気持ちが生まれたのでしょう。そこには大人が入って、「ごめんなさいは?」「いいよ、って言うんでしょ」という「解決させる」ということはありません。自分たちの力で解決したのです。「ごめんなさい」を言えるようになるのではなく、「ごめんね」の気持ちを持ち、表現できるようになるのが大切なのです。

 その後、2人には分かり合える何かが生まれたようでした。もちろん、いつもこのようにいく訳ではありませんが、ケンカも大切な体験です。子どもたちの体験を大切にし、見守っていく保育・教育がこれからは必要なのではないでしょうか。いわば、さまざまな体験をする“体験教育”が大切なのです。

 乳幼児期には「これが好き」「嫌い」「これをやりたい」という気持ちを自由に表現できることが大切です。大人の都合で、子どもに本当の気持ちを言わせない保育・教育ではなく、自由に自分を表現させていく教育で、子ども一人ひとりがやりたいことが分かり、それを実現させるために考え行動する力が身につきます。こうした保育・教育を、今の時代が求めているのでしょうか。

未来につながる子どもの育ち

小川下りにチャレンジ中の1歳児
小川下りにチャレンジ中の1歳児

 たくさんの人に比べられて、「自分はダメだ」という劣等感を持っている人が多くいます。以前、不登校児やひきこもりの人の自立支援プログラムに関わっていましたが、私は、そこにいる人の多くが、自分の気持ちを表現させてもらえずに育ったように感じました。これを言ってもいいのかな、やってもいいのかな、と大人の顔色を見るのに疲れてしまった人たちのように感じました。

 話をよく聞くと、その人たちの心の奥底にやりたいことがあることが分かりました。その思いを、自信を持って言えなくさせてしまったのは、保育・教育の仕方ではないでしょうか。

 私は、この「森のようちえん」を通して、大人も子どももみんなが自分の思いを自由に表現できる世界にしたいと考えています。「頑張ってやらなければいけないこと」ではなく、「自分がやりたいことをやってみる」ということは大人も子どもも大切です。頭で考えて、「やっておいた方がいいからやる」のではなく、心の底から「これがやりたいんだ」と思うことができれば、どんなに大変でも、それを苦労だとは思わず楽しんでできます。結果ではなく、体験こそが大切なのです。

 レイチェル・カーソンという海洋生物学者が書いた『センス・オブ・ワンダー』という本に、次の一節があります。

「〈知る〉ことは〈感じる〉ことの半分も重要ではない」

 頭で何かを知るよりも、自分で体験して感じたことがより身につきます。一人ひとりの興味を持って何かを行うという体験が、多くの人へとつながり、地域、コミュニティー、日本、世界へと広がっていく…。このようにして、新しい、今までの概念を覆すような世界が創られていくと思い、「森のようちえん」を広めていっています。



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