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NPO法人キドックス代表理事/上山  琴美さん

上山 琴美さん
「捨て犬を介した子どもの自立支援教育を広げたい」
Profile

上山 琴美さん/NPO法人キドックス代表理事
幼いころから2匹の愛犬と共に育つ。08年筑波大学人間学類卒業。学生時代に子どもの教育活動へ関心を持ち、非行少年などの支援活動に携わる。一方で、犬の保護活動にも携わる。アメリカで行われている「犯罪を犯した少年が捨て犬を救う更生プログラム」を知り、捨て犬を介した子どもの自立支援教育を、日本で広めるべくNPO法人キドックスを設立し、茨城で活動中。
http://kidogs.org


ブラッシング風景
ブラッシング風景

 私は25歳のときに、NPO法人キドックスを立ち上げ、現在は茨城県土浦市で活動しています。キドックスでは、家庭や生育環境に問題を抱え、ニートやひきこもり、非行や不良行為などの課題がある若者を受け入れています。彼らは、キドックスのプログラムを通じて、捨てられた犬の心のケアや家庭で暮らすためのトレーニングを行い、捨て犬が幸せに暮らせる場を探す手伝いをしています。

 飼い主に裏切られて捨てられ、中には虐待されていた犬もいるため、人におびえたり、人間不信が残っていて、心を開けない犬もいます。そんな犬たちに、若者は優しく温かく接し、「人を信じていいのだ」「安心できる人もいるのだ」ということを、ゆっくり時間をかけて教えていきます。

 彼ら若者たちにも、虐待を受けた経験など、人間不信の子もいます。自らの経験があるからこそ、同じような境遇にいる犬たちに、どうすればいいのか、よく考えて接することができます。

 不思議と、犬たちも彼らには心を開き、性格も明るくなっていきます。その過程を通して若者自身も、自ら変わることでしか相手を変えられないこと、認めてもらうには、まずは自分が相手を認めること、結果を急がずに耐えて待つこと、などを学んでいきます。そうやって、他者との関係の作り方や愛情を与え合うことなど、これまで学べなかったことを学んでいます。

散歩中の風景
散歩中の風景

 私がこの活動を始めたきっかけは、2つあります。

 1つ目は、とても単純な理由ですが、ずっと犬と一緒に暮らしていたことです。物心がついたころには身近に犬がいる生活でした。「犬は家族の一員」とよく言われますが、私にとっての犬は「良き理解者」だったように思います。学校で嫌な事や悩みがあるときも、良い事があってテンションが高いときも、犬はいつも何も言わず、ありのままの私を受け入れてくれました。

 そんな犬たちに何の恩返しもできないまま、高校1年生のときに1頭が心臓病で死にました。大学4年生のときに、もう1頭も病気で死んでしまいました。「犬たちは私に多くのことを教えてくれ、たくさんの幸せをくれたけれど、私は何をしてあげられたのだろうか?」そんな悲しい思いの中で、無責任な飼い主によって犬が捨てられ、殺処分をされているという事実を知りました。不幸な犬たちを救うことで愛犬に恩返しができたらと思い、犬の保護活動に携わるようになりました。今まで数多くの動物愛護団体の現場に参加してきました。

 2つ目の理由は、友人が非行へ走ったことです。とても仲の良かった小学校時代の友人が中学に入り素行が悪くなりました。人はなぜ不良行動に走っていくのかに疑問を持ちました。高校生の時には犯罪心理の本をたくさん読み、犯罪に走る多くの人は家庭や生育環境のどこかで問題を抱えていることが多いという事実を知りました。

 そんなある時、「プロジェクトプーチ」というアメリカの少年院で行われている更生プログラムをテレビで見ました。犯罪を犯した少年が捨て犬を救う活動を通じて、責任・忍耐・愛情を学び、更生するというプログラムで、200人以上の卒業者がいる中で再犯率が0人という実績に目を疑いました。境遇に恵まれない若者と犬、双方を救えるプログラム。私にとって「これだ!これを日本で絶対やりたい!」と思えるものでした。

「待て」の練習風景
「待て」の練習風景

 大学時代に非行やニートの少年を支援する活動や犬の保護活動に携わり、NPOだとしても活動を継続的にやっていくには「事業を行う経営脳が必要だ…」と強く感じ、店舗経営を学べる民間企業に就職しました。

 その後、自身の思いを実現するべく、就職した会社を退職し、アルバイトと両立しながら任意団体を立ち上げました。2012年に法人化し、土浦市内にキドックスファームという施設をつくり、現在に至っています。

 実際に事業を行う中で、大変なことや想定外なことの連続ではありますが、信頼できて志を同じくするスタッフがいること、多くの温かい方々にご支援・応援いただいていること、そして何より、若者と犬の成長を間近で感じられること。この3つで、困難を乗り越えてきました。

 この前まで、自分の感情を怒りで表現していた子が、それを抑えて別の方法で表現しようと頑張っている姿。自分のことで頭がいっぱいだった子が、周囲の人のために自ら行動している姿。

 人におびえていた犬が、今では人を見て尻尾をはち切れんばかりに振るようになった姿。引っ込み思案だった犬が積極的に人の言葉を理解しようとして行動する姿。

 キドックスのプログラムの時間は、やりがいや喜びを感じる瞬間にあふれています。

犬に「待て」の指示を出して頭にかぶりものを装着(遊びをかねた「待て」練習)
犬に「待て」の指示を出して頭にかぶりものを装着(遊びをかねた「待て」練習)

 ここで、若者たちが社会で生きる基礎力を身につけ、自立した社会人として旅立っていくこと。そして犬たちが心から安心できる家庭を見つけていくこと。どちらも簡単なことではないですが、いつか訪れるその日のために、キドックススタッフも、若者たちも、犬たちも、そして私自身も、それぞれが課題を乗り越え、走り抜けていきたいと思います。


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