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認定NPO法人日本紛争予防センター(JCCP)事務局長/瀬谷 ルミ子さん

瀬谷 ルミ子さん
「紛争解決のプロフェッショナルとして」
Profile

瀬谷 ルミ子さん/認定NPО法人日本紛争予防センター(JCCP)事務局長
中央大学卒。英ブラッドフォード大学紛争解決学修士号取得。国連PKO、外務省、NGO職員、ルワンダ、アフガニスタン等で勤務。2011年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人25人」に選出。紛争地の住民・組織の能力強化を通じ、「被害者」を「問題解決の担い手」とすることで、治安改善、社会的自立、和解促進を実践している。NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演。著書『職業は武装解除』朝日新聞出版。


紛争解決を職業とすることを志すきっかけ

 きっかけは高校3年生の春、新聞に掲載されていたルワンダ内戦の難民の親子の写真を見たことでした。コレラで亡くなりかけている母親を子どもが泣きながら起こそうとしている写真でした。

 その姿に強い衝撃を受けたと同時に、自分の手の中にある可能性に気づかされました。その親子は、生きることさえ選べない状況で死に瀕しているのに対し、私は、努力さえすれば自分で状況を変えることができる社会に生きているという決定的な違いに気づきました。

 そして、その気づきを与えてくれた紛争地の状況を変えられる人になりたいと思いました。

 物資を配ったり治療をしたりということは既に専門家がいたので、現地にニーズがあるけれど、まだ担い手がいなかった紛争解決の分野を志しました。当時、紛争解決を学べる日本の大学はなかったので、ますます自分がやるべきだと確信したのです。

アフガニスタンでの活動を通して

武装解除により回収された武器 アフガニスタン民兵組織との交渉
武装解除により回収された武器 アフガニスタン民兵組織との交渉

 2003年から2年間、アフガニスタンの日本大使館員として各国大使館や国連と協力しながら軍閥の武装解除を行いました。武装解除に当たっては、各勢力の兵士の数や政治的な思惑など様々な情報を集めた上で、軍閥の司令官との交渉に臨みました。

 武装解除を行うことができたとしても、治安維持の仕組みがなければ、状況は悪化します。アフガニスタンの場合は、軍閥の武装解除としては一定の結果は出しましたが、警察や新しい軍の強化などの部分との連携がうまくできたとはいえなかった部分があります。

 また、日本としての役割も考えさせられました。カブール郊外の武装解除の現場では「日本が言うことだから、自分たちは信頼して武器を差し出している」と兵士たちに言われました。日本は中東やアフリカでは中立的な立場に見られている面があります。武装解除は非常に政治的でセンシティブな活動ですが、日本として取り組むことが、プラスに働くことがありました。同時に、日本が世界で果たす役割について、考えさせられるきっかけにもなりました。

武装解除の難しさ

アフガンの重火器集積所で国連スタッフ、アフガン新国軍兵士と
アフガンの重火器集積所で国連スタッフ、アフガン新国軍兵士と
スーダンの現地警察と
スーダンの現地警察と

 武装解除の難しさの一つに、加害者と被害者の和解の問題があります。

 兵士に武器を手放させ、兵士をやめることに応じてもらうため、引き換えに内戦中に行った戦争犯罪を無罪にすることがよくあります。犯罪に問われる可能性があれば、武器の引き渡しには応じないだろうという理由からです。

 また、兵士をやめた後も仕事が無いために再び武装蜂起して、争いを起こすような事態を防ぐため、彼らが経済的に困窮しないように対策を施す必要もあります。

 実際、シエラレオネの「武装・動員解除、及び社会復帰計画」においては、兵士たちは恩赦を与えられ、紛争が終わった後も経済的に困窮しないように手に職をつけるための職業訓練を受ける機会を与えられました。

 紛争後の安全を確保するための方法の一つとして武装解除が行われますが、被害者からすると加害者に職業訓練のような恩恵を与えることになります。その一方で、紛争で家族を失ったり身体に障害を負ったり、避難民となっている被害者にはそのような恩恵が与えられることは滅多にありません。その理由として、加害者の数と比べて被害者の数が圧倒的に多いことが挙げられます。 

 また、被害者は、元兵士の不満が爆発したら再び犠牲になるのは自分たちだと感じており、このような理不尽な矛盾も平和的な大義のために飲み込んでいるという現状があります。

 これでは、将来同じような争いが起きたとき、加害者側に回った方が得策だと考えられてしまう危険性もあります。武装解除は必要ですが、それだけで全てを解決できるわけではない。私が現場で感じた難しさはここにあります。

 もちろん紛争地では、加害者と被害者を単純に二分できないことが多いです。例えば子ども兵士は、兵士としては加害者であり、誘拐され従軍させられた身としては被害者でもあります。そのような紛争地では、元兵士だけを対象とするのではなく、被害者を含めた住民たちのコミュニティーとの連携を重視して支援することが課題とされています。矛盾をはらむ武装解除よりも、被害者と加害者をもっと公平に扱いながらバランスの取れた支援を行い、現地の安全を築いていく策を実現していきたいと考えています。

目指してゆく国際平和

 生き方の選択肢が多ければ多いほど、その社会は平和に近い状態だと考えています。生きるか死ぬかも選べないような社会は、決して平和とはいえません。衣食住が満たされ、教育が受けられ、職業選択の自由が生まれてくることで、平和な社会に近づいていくのです。

 かつて私は、平和には和解が必要だと思っていました。しかし、これまでの経験を通じて、和解は必ずしも平和に不可欠なものではないと考えるようになりました。紛争後の地域では、和解という言葉すら聞きたくない、といった人たちもいます。部外者の我々が紛争地に入っていき、強引に和解を押しつけるのは決して良い方法ではありません。むしろ皆が仲良しではなくても、意見の相違を暴力や武力を用いずに共存できている状態であれば、それも一つの平和の形だと考えています。

これからの活動予定

 日本紛争予防センター(JCCP)の活動は、三つの分野を柱として行っています。1つは人々が安全に暮らせる治安システムや問題解決の仕組みの支援をする「治安改善」、2つ目は、被害者を含む現地住民の心のケアや自立を支援する「社会的自立」、3つ目は、紛争後も長期にわたる社会的な分断を克服するための「和解と共存」の分野です。

 いずれも、現地にニーズはあるものの、国際的に担い手がいないという分野に特化するようにしています。現地の人たちが自立して活動できるようになり、自分たちが平和の担い手として自ら社会を作り上げていけるようになるための支援を今後も続けていきます。



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