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超細書・細彫刻家/牧野 良香さん

牧野 良香さん
「小さな文字の美しさに魅せられて」
Profile

牧野 良香さん/超細書・細彫刻家
http://kansha-no-kokoro.com/


般若心経の文字に出合って

招き猫 万物にありがとう(3900文字)
招き猫 万物にありがとう(3900文字)

 私が超細書に興味を持ったのは、今から31年前のことです。知人から頂いた色紙に書かれた般若心経276文字の作品に出合ったことが、そのきっかけでした。色紙の中に書かれている一文字一文字は、力強く、美しく、魂さえも感じられました。その時、今までとは違った衝撃が、私の体に走りました。もう、どうにも止まらない気持ちを抑えきれず、近くのお寺で般若心経の経本を頂いてきました。そして、自分の気持ちのまま肉眼で、まず色紙に般若心経を書いてみました。だんだんと紙を小さくしていき、その日のうちに、1センチ四方の紙に276文字を書き入れた般若心経が出来上がりました。

小さな作品の広がり

いろはかるたの中からコメに油断大敵 ありがとういっぱいこころの木
いろはかるたの中からコメに油断大敵 ありがとういっぱいこころの木

 身の回りにある小さな物に興味を持ち、毎日食べているコメ粒の表面に文字や絵を書き込んだり、小さなゴマ、キビ、アワにも挑戦しました。

 最初は、般若心経という紙の作品から始めましたが、運命の糸に引き寄せられ、小さな物作りへと歩き始めました。
 切り絵用カッターで、つまようじを彫って作る、つまようじの彫刻にも取り組んでいます。つまようじの彫刻では、梅沢富美男の夢芝居、サッカー選手の中山雅史、野球選手のイチロー、ピアニストなどを表現した作品を完成させました。

 小さなつまようじを見ると、自然に心と体が大きく動きます。能舞台や仏像など、頭の中に浮かび上がってくる物に真正面からぶつかっていきました。私の右手が動き、小さなつまようじから、次々と作品が生まれてきます。

 私の視力は裸眼で、0.02ですが、創作に虫眼鏡などの拡大鏡は一切使っていません。勘を頼りに小さな物作りに挑戦しています。

 創作に教科書は必要ありません。「自由で、型にとらわれないこと」を信念としています。でも、楽しさと苦しさは、背中合わせです。繰り返し、繰り返し創作をしていくうちに、目の前の小さな物に愛らしさを感じ、物に“命”が吹き込まれて一心同体となり、一体、一書が出来上がります。小さな物に大きな心が宿るには、大きな技術が必要となります。また、失敗は大きなダメージとなり、立ち直るまでに時間がかかります。作品に取り掛かる前のイメージは大事です。小さいから、できないではなく、「失敗しないぞ」というよりも、「できる!」という思いで取り掛かります。 

苦労と感謝の心から生まれる作品

聖観音菩薩と万物にありがとう 聖観音菩薩(般若心経)・頭部の拡大
聖観音菩薩と万物にありがとう 聖観音菩薩(般若心経)・頭部の拡大

 つまようじの彫刻で、能舞台を作った時、土台から取り掛かり、左の屋根の傾斜、右の屋根と、下から上へと順々に作っていきました。設計図もなく作っていったのですが、不思議と左右ぴったりにできました。また、透かし天井、床、舞台に上がっている人物などを作るのに1週間くらいかかりました。昼夜の区別もつかないほど、物作りに没頭しました。辛い時もあります。作品が細かく小さいこともあり、彫刻刀を持つ手や指に力が入らなくなり、痛みのためか、彫刻刀を持っている指がだんだんと細くなって、彫刻刀が指から抜け落ちるようになり、気持ちと体がついてこなくなってしまったこともあります。こんなことを繰り返していると、目まいを起こしたり、吐き気を感じたりすることもあります。そんな時には、少し休んで、久しぶりに太陽を見ると、じわじわと私の体に血が巡ってきて、ああ、生きているんだなあと実感します。

 これからも自分と戦いながら、大好きな物作りに情熱を燃やし続け、万物に対し、感謝をしていきたいと思います。



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