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登山家/田部井 淳子さん

登山家/田部井 淳子
「山の四季」
Profile

田部井 淳子/登山家
1975年世界最高峰エベレスト8,848mに女性として世界で初めて登頂。1992年7大陸最高峰登頂(女性世界初)。現在までに58カ国の最高峰に登頂した。NPO日本トレッキング協会会長。『田部井淳子の はじめる!山ガール』(NHK出版)、『日本人なら富士山に登ろう!』(アスキー新書)など出版物も多数。



春は花を求めて里山歩き

春は花を求めて里山歩き

 氷河の続くヒマラヤや砂漠の地を歩いていると、日本に帰ったらすぐに山に登りに行こう、と思う。

 とにかく緑が恋しくなる。緑豊かな自然の中で生まれ育った私は緑の世界が当たり前だと思っていたし、桜が咲いても、あぁー春だと思うだけで、今のようには感激はしなかった。あまりにも日常すぎていたからだ。

 海外の山々に行くようになり、日本の風土の素晴らしさをあらためて感じるようになった。

 春、木々にピンクの新芽が出始めたころから、山々は動き出すかのごとく変化する。柔らかい緑の葉や、まだ黄色いつぼみのような新芽が常緑樹の中で輝きを増す。

 緑にもいろいろな色があることに気付く。

山仲間と北アルプス縦走

山仲間と北アルプス縦走


槍ヵ岳にて

槍ヵ岳にて


西吾妻でスキーを楽しむ

西吾妻でスキーを楽しむ

 緑が刻々と変化し、山全体から緑の香りが漂うような4月、薄いピンクの山桜やこぶしの花が咲き始め、山笑う状態になる。こんな時、自分の山家の近くの里山に出掛けてみると元気が出る。ヤマブキやタンポポの鮮やかな黄色が、緑の中で自分の存在を誇るように咲いている。

 少し高い山に登ってみるとオオカメノキ、ガマズミ、ウシギ、ウラジロヨウラク、スイカズラ、ヤマボウシなどの白やピンクの花に迎えられる。

 九州の霧島山は、ミヤマキリシマで全山が赤色に埋めつくされる。見事な風景でぜひ一度は見てほしい。街に帰ると藤の花が咲き、クチナシの甘い香りが鼻をくすぐる。5月、6月の日本はまさに花盛りの季節。気持ちもなんとなく高ぶり、自分もなにか始めてみようかと思えるのだから自然の力は大きい。

 雪に閉ざされていた上高地にバスが入れるようになるころ、ぜひ梓川のほとりを歩いてほしい。残雪をたっぷり頂いた穂高連峰を仰ぎ見て、森に入ると地面一面にはニリンソウが白く揺れているのを見ることができる。萌え出たばかりの薄い緑の葉の樹木の下で、この風景に出合ったら、どんな人でも感激する。その光景のたくましさとかれんさに、よし、夏は北アルプスに登ってみよう、と思うに違いない。

 そして夏、憧れていた北アルプスや南アルプスの開幕に、自分の体力や時間に応じてルートを決め、いざ縦走へ出掛けてみよう。北アルプスの大パノラマを見るなら、初心者でも安心して登れる燕岳がおすすめだ。八ヵ岳も木曽駒も安産太郎山もいい。夏なら東北や北海道の山へ行くもよし。屋久島の縄文杉を見に行くのもチャンスだ。山の緑が滴る中を歩くだけで元気になる。コマクサやイワカガミ、チングルマなどの高山植物が一斉に咲く夏、雄大な北アルプスの峰を歩いてみると一歩、一歩の大切さ、すごさが身にしみる。

 秋、ダケカンバやウルシ、ナナカマドなどが紅や黄色に色付き、山は冬に向けて装う。木の葉がすっかり落ちた林の中を、落葉を踏みながら歩く。冬の気配を感じながら、里山を歩くのもまた楽しい。

 スキー場のリフトを利用して1番上まで登ると、樹氷と木の枝にレースのように張り付いた霧氷が見られる。どの季節も日本の山は美しい。

 どんな悩みも小さくみえるのだから、山に行くことをおすすめしたい。



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