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遊書家/里舘 夢子さん

遊書家/里舘 夢子
「文字遊びの書」
Profile

里舘 夢子/遊書家
遊書舎「宙so-ra」主宰。ユネスコ美術教育連盟会員。グラフィックデザイナーを経て遊書家へ。筆の持つ味わいを生かし、書道の様に決まったルールに縛られない書体を確立。日常生活の中で楽しめる“新しい書”として展開している。近年、中国雲南省ナシ族のトンパ文字や英字、古代文字の表現を国内外で発表。個展活動の他、 NHKTV、民放TVなどにも出演。2010年3月に地元鎌倉での展覧会を予定。HP: http://homepage2.nifty.com/sora-sato/



 皆さんは街角やお店の看板、食品のラベル、ポスターなどで自由に筆を使って書いてある文字を見掛けたことがあると思います。

 文字が生き生きと、その言葉の持つ意味を上手に表しているパッケージなどを思わず手に取ってみたことがある人も少なくないでしょう。

「椿 Spring has come」

「椿 Spring has come」


 文字は私たちの周りに、子供のころから溶け込んでいます。小さいころにはノートの端にいたずら書きをしたり、ノートの題字を書くのに時間を費やして文字遊びをしたり…。「文字」も「絵」も大人になるにしたがって「上手、下手」にとらわれるようになり、筆を持って書くことは「専門家」というワクの中に取り込まれ、筆や墨に親しむ楽しさを忘れてしまっています。しかし日本は良質の和紙を作り、墨を作り、筆を作り、「書く文化」の歴史の長い国です。墨の放つ、あの独特の匂いはなぜか背中をシャンとさせ、紙は反古紙でもすぐには捨てずに再利用したり、筆が紙の上をすべっていく感触を感じたり、いろいろな楽しみ方があります。そして、墨をすったり、筆を選んだりする準備を経て、筆で身近な方に言葉の便りを書く時などは、出す方も頂く方も嬉しいものです。

 ただ、私たちは筆で書くというと、「書道をやっていないので…」と避けてしまいがちです。

 今、私が勧めているのは、一文字か二文字の季節の言葉や、心に浮かんだ言葉を自由に書き、色を添えたりすることです。そうすると、その言葉が身近に感じられ、「上手、下手」といった範囲を超え、少しぐらい線が細くても太くても「いい味が出ている」と思うはずです。

「凛」

「凛」

 筆の持つかすれやにじみ、荒々しい感じや優しいラインなどの表れは、ペンでは表現できません。私がカルチャーセンターなどで伝えるのは「上手に書く」ことではなく、“書きたいイメージに近付くにはどんな材料を使い、どんな配色や配置が合うか”というアドバイスです。“こんな風に書きましょう”ではなく“こんな風に書きたいならこんな方法があります”と助言していきます。あくまで主役は自分です。また高価な和紙や墨を使わなくても、身近にある割りばしで書いたり、ダンボールを使ってみたりとさまざまです。初めての方は自分の名前に使われている一文字を気に入るように書いてみることから始めてはいかがでしょう。季節の花名や、お気に入りの歌詞の一つのフレーズを書いて友人に送ってみてもいいですね。その時間はきっと今までの時間と違った時の流れになることと思います。

 全く違うアプローチとして、「文字の起源を調べて文字に親しむ」という楽しみ方もあります。文字にはそれぞれ作られた時の意味があります。例えば「白」は農作業をして足の甲は日に焼けて黒いが、足の裏は白い、ということから足の形をモデルにして生まれたという説もあります。「朝」は、まだ月の沈みきらない時、草と草の間からお陽さまがほんのちょっぴり顔を出し始めたころを意味しています。その時刻に占いをして政を決めていたという説から「朝廷」などの言葉に結び付いたなど、紐解くと漢字のルーツには奥深いものがたくさんあります。今は漢字のルーツに関する本がたくさん出ているので、お気に入りの文字のルーツを調べてから筆文字書きに挑戦してみてもいいでしょう。

「福は内 鬼は外」

「福は内 鬼は外」



 私は、「どうして遊書をやろうと思ったのですか?」と聞かれると「文字の形が面白いから」と答えます。文字の形はよく見るとデザイン的にシャレていたり、バランスが悪すぎて面白かったり、なんでこの形になったのかなと不思議に思う字に出合います。そうすると、ルーツを調べて「あー、なるほど」と納得し、じゃあ書いてみようと思い、さてどんな筆を使うか、墨にするか、墨で真っ黒にした紙の上に白文字で書くかなど、イメージが膨らんできます。そんな時は、時間が経つのも忘れ、ワクワクしながら手を動かします。このワクワクした感覚は、子供のころに誰もが持っていた、何の見返りも期待しない、人間が持つクリエイティブな本能だと思います。

 たまたま私は幸いなことに、この素敵な“手で書くこと”を仕事にすることができています。皆さんも1年に1度くらい、筆を持ってみてはいかがでしょうか。年末という時期でもありますし、パソコンで作る年賀状も便利で良いですが、大切な方への数枚は、手と筆で、時間をゆっくり使って相手の方を思いつつ、筆文字に親しんでみてはいかがですか。きっと素敵な時間と出合えることでしょう。



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