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絵地図師・散歩屋/高橋 美江さん

絵地図師・散歩屋/高橋 美江
「絵地図と散歩で脳みそを柔らかく」
Profile

高橋 美江/ 絵地図師・散歩屋



広げるとA2サイズの大判、「浅草地図」

広げるとA2サイズの大判、「浅草地図」

絵地図師・散歩屋とは

 私は絵地図をよく描くが、医師、美容師のように専門的な仕事なので、「師」を使って絵地図師と。また、散歩は誰でもするが、講座を持ち仕事として散歩をしているので、米屋、菓子屋のように「屋」を使い、散歩屋と名付けた。つまり、散歩のプロ。

 絵地図も散歩もプロとして行っているので、それなりの技術と心構えを持ち合わせているつもりだ。でも、私は意図してこの2つの仕事を目指したものではなく、気付いたらこうなっていたのだ。

偶然の産物 …絵地図と散歩のプロに

 美大を卒業した私は、映画好きが高じて映画関係のデザイン会社に就職。その後結婚して一時は専業主婦をしていたが、下の子が2歳くらいの時に、フリーランスでグラフィック・デザイナーとイラストレーターとして復活。自称「兼業主婦」として、子育てと仕事の二足のわらじを履いて頑張ってきたのである。


和紙に描くと、独特の柔らかさと温かみがかもし出される。「檜原村」

和紙に描くと、独特の柔らかさと温かみがかもし出される。
「檜原村」

 そして十数年ほど前に、横浜市瀬谷区の地域資源…つまり神社や寺、自然などをイラストにする仕事を頼まれた。どうせなら絵地図にして地域資源をそこに落とし込めば分かりやすいと、いつの間にか絵地図を描く仕事に。安請け合いしたものの、大判の地図は初めてで、しかも商業地域や緑地など土地利用の正確さを求められたので、最初の絵地図は私にとってはしんどい仕事だった。

 ところがその絵地図が完成すると、横浜市の別の区から絵地図依頼があり、さらにその作品が次の仕事を呼び…と、絵地図が一人歩きをし始めた。また、東京新聞で絵地図の連載がスタートし、まちづくりの財団からレギュラーの絵地図仕事も始まった。大判地図は大阪、福井…へと広がり、仕事の中で絵地図が占める割合が徐々に多くなっていった。

 2005年からは、NHK文化センターでまち歩き講座の講師をしている。これも偶然の出会いから。ある集まりで、たまたま隣の席にいた見知らぬ紳士と世間話をして、持っていた絵地図を見せたところ、「事務所に来てください」と。そして、「ちょうどまち歩きの講師を探していたので、ぜひお願いします」。この方は文化センターの支社長さんだった。もともと旅行が好きだったので、「こういう仕事もいいなぁ?」と、軽いノリで講師をお受けした。下町を中心としてまちを案内するツアー・ガイドの仕事。これが散歩屋の誕生。2007年からはNHKの番組でまち歩きを担当し、同年、『絵地図師・美江さんの東京下町散歩』(新宿書房)を出版。本を出してからはメディアの連鎖が始まり、ネットや新聞記事に載ったことから次の取材が入り、さらにその記事が次の取材を呼んで…と、これも一人歩きをし始めた。そうやって周囲の方々が興味を持つ、私の描く絵地図や散歩とは何か?ほかの絵地図、ほかのガイドさんとの違いは何か?

タッチにこだわり、機能する絵地図

絵地図だからこそ、縮尺の異なるこんな表現も可能に。「鴨居へそマップ」

絵地図だからこそ、縮尺の異なるこんな表現も可能に。
「鴨居へそマップ」






 私の描いた地図を見た方が感想を述べる時の、共通の言葉がある。温かい、優しい、見入ってしまう。特に「温かい」はよく聞かれる。1つには手描きだからであろう。パソコンで描かれた地図の線は皆同じ直線だが、手描きのそれは1本1本表情が違い、地図全体として雰囲気のあるものに仕上がっている。さらに、私は和紙をよく使う。にじみ、ぼかし、かすれる和紙は描き手にとってはやっかいな画材であるが、和紙に描かれた絵地図は柔らかな線と色合いをかもし出し、見る人がホッとするような情感を伝えるのであろう。イメージだけでなく機能的なことにも気を使う。あちこちの観光地で絵地図を集めてくるが、それを持って目的の場所にたどり着ける者は案外と少ない。地図の作り手が、使い手のことを意識していないからであろう。私は、その地に初めて訪れた人の心理をシミュレーションして、ランドマークの建物や、路地、信号機名を絵地図に入れる。しかもベースにする地図は、正確な地図を数種用いる。絵地図をデザインする時のコンセプトは、その地域に初めて来た方が、持って歩ける地図…“機能する地図”。よく縮尺のことを言われる方があるが、それも考慮しつつ、読み手の心理を考えて作られたかどうかがポイントであろう。

絵地図師・美江さんの東京下町散歩(新宿書房)税込1890円

絵地図師・美江さんの
東京下町散歩
(新宿書房)
税込1890円

専門は「お散歩民俗学」

 散歩では情報のバリエーションを豊富にして、どう伝えるかを工夫する。歴史も大切だが、今を生きる私たちでしか得られないようなナマの情報もたくさんあるはず。ガイドというと歴史解説一辺倒になりがちだが、最近の情報やエピソードを盛り込むと興味の対象も広がり、そのまちやモノを楽しんでいただけるようだ。そう、まち歩きのコンセプトは、“面白がる”。観光スポットを見て歩くだけでなく、私はそのまちの普段の生活の中から面白いモノを発見して、その意味を説いて歩くようにしている。民俗学で「ハレ」(非日常、よそいき)と「ケ」(日常、くらし)という言葉があるが、観光スポットの「ハレ」と日常の「ケ」の両方のバランスが大切だ。そんな私なりのまち歩きを、私は「お散歩民俗学」と名付けた。

必要なものは、柔軟な脳みそと個性

 講演会などで、「絵地図作りのポイントは?」「散歩のコツは?」などとよく聞かれる。私の答えは「ポイントもコツもありません」と、冷たい回答?いや、本当の話。絵地図や散歩に技術や方法論なんてものはない。先入観や固定概念にとらわれず、目に見えないものを感じ取り、自分の感性を面白がればいいだけのこと。私は“技術以前”という言葉をよく使う。技術より以前に、テーマや対象をどうとらえ、分析し、構築(=創造)するかが重要だ。ポイントやコツがあるとすれば、それを可能にする“柔軟な脳みそ”と“個性”の必要性だ。



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