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キルト作家/園部 美知子さん

キルト作家/園部 美知子
「布と遊ぶ パッチワークキルトとの出合い」
Profile

園部 美知子/キルト作家
東京都生まれ。高島屋宣研にてスタイリスト、その後ライトパブリシティにてファッションスタイリストとして働く。東急ハンズ「ハンズ大賞」でムード賞を受賞したのを機に、本格的にパッチワークキルトの世界に入る。現在、Micci Quiltを主宰、国内外で活躍中。著書に「園部美知子のパッチワーク ヴィクトリアン・タイム」(パッチワーク通信社)ほか多数。
公式サイト: http://www.micciquilt.com/



 私が初めてキルトというものを意識して目にとめたのは、ファッションスタイリストとして活躍していた25歳のとき、友人と一緒に出掛けたパリの街でのことでした。

 1軒のインテリアショップのウインドーにディスプレイされていた、ベッドキルトに出合ったのです。それは白、赤、緑のとても優しい色合いをした、花のアップリケキルトでした。立ち止まってしばらく見入っていたものの、その場はそのまま通り過ぎました。 

 その後、しばらくして結婚をし、2人の子どもに恵まれて、家事と子育てに専念していたある日、外出した先で、人だかりのキルトのイベントに遭遇しました。たくさんの人の群れで、ゆっくりと細部まで見ることはできませんでしたが、自分と同年代の人がベッドキルトのような大作を、自分で作っていることに驚き、感動しました。そしてこのとき、なぜ、パリのショップのキルトの前で足を止めたのかが分かったのです。それは「作る側がある」という答えでした。

 最先端で仕事をしているうちに、すっかり忘れていたものでした。そのころはモノは買うもの、借りるものという認識が定着していて、作るという発想が私の中で欠如していたのです。そしてこのことに気が付くと、いろいろなことが点から線に結び付いていきました。

 独身のころはサイズの合う服がなく、着るものは自分で布を選びオーダーしていたことや、その余り布があればおそろいの靴を作っていたこと、友人のアドバイスを借りながら小物であれば自分で作れるようになり、いつも人と違うおしゃれを工夫していたこと、そしてその個性的なセンスが認められ、スタイリストにスカウトされるきっかけになったことなどが思い出されました。そして、この「布」で作るキルトというものが、自分にも作れるような気がしてきたのです。

カフェる

カフェる

 その後、子育てが一段落するのを待って、私はパッチワークの基礎を学ぶためにスクールに通い始めました。知れば知るほど、その歴史もテクニックも奥深いキルトにどんどん虜になりましたが、個性が強く、不器用な私はみんなと同じパターン、同じ布、同じ配色でのレッスンが苦痛で仕方ありませんでした。そして1年目を終えようとするころ、自分なりに好きなキルトを作ってみようと、人物のアップリケキルト『カフェる』を作りました。これが賞をいただくことになり、自分らしい納得のいくキルト作りの一歩を、踏み出すことができました。

 作るということは、私にとってとても楽しいことです。布をあれこれいじくり回しているときは、子どもが積み木遊びや折り紙遊びをしているような、心が解き放された状態です。女性なら誰もが関心を持っている布の類、レースやリボンを含めたそれらを、自分の好みのもので、自分の裁量で作り上げていくパッチワークキルトは、本当に素晴らしい手仕事です。

 よく「どうしたらあんな素敵なデザインが考えられるのですか?」といった質問を受けますが、私のデザインの発想源は、自分が見るもの、携わっているものすべてです。美術館、本、映画、人物、植物、風景、お店、旅行…。またスケッチが好きなので、絶えずスケッチをしています。バラを育てることも楽しみで、つぼみがつくころからだんだん花が開く段階もみなスケッチしています。こうして描きためたものをデザインに起こしていくわけです。

 キルトは1度作ったら長く使え、何年でも残るものです。今残されているアンティークキルトが、私たちに感動や安らぎを与えてくれるように、自分の作ったキルトもいつ見ても素敵に見えるよう、愛情を込めて作りたいと思っています。未熟な配色や縫い方は責められませんが、それは訓練と努力が解決します。そのときの自分の求めるキルトにいかに自分が挑んだか、そのことがまずは大切だと思っています。

 私にとって納得のいくキルトを作る上で、普段から心掛けていることは素材集めです。手芸アーティストにとって、ものを集めることは、想像力を高めるためにとても大切なことです。インスピレーションは、いつ、どこから生まれるか、全く分かりません。

Rooman Roses

Rooman Roses

 アイデアがわけば、すぐスケッチを描き、材料をセレクトして構成を固め、早く制作に取りかかりたい私には、布やレース、リボン、ボタン、ビーズ、パーツ、ブレード、コードなどの素材が手元に豊富にあることは、とてもありがたいことです。それらの素材たちはいつも私に何か語りかけてきて、アイデアが次々に浮かんでくるのです。

 素材集めは手芸専門店だけではなく、アンティークショップやインテリアショップ、街の洋服屋さんなど、さまざまな場所で行います。そして素敵な素材に出合った瞬間は、大きな喜びです。それは必ず、「楽しいキルト作り」に結び付くからです。

 さて材料の中でも、パッチワークキルトは、やはり布が命です。布にはプリント柄、織り柄など、それぞれテキスタイルデザイナーの意匠が宿り、それなりの主張があります。それを寄せ集め、生かしながら、自分流に変える楽しみは格別です。その上で、オリジナルの生地も手掛け、それを楽しんでいます。

 私の布の求め方は、3つの考え方に基づきます。1つ目は、自分にとっての基本色の布です。白・生成り系、黄系、赤系、グリーン系、紫系、茶系は、私のキルト作りにおいて最も大切な色調で、絵の具のようにいつも取り出せるよう、折りにふれて求めてはストックしておきます。

カフェバー

カフェバー

 2つ目は、大きな作品を作るときの布の求め方です。ベッドカバーや大きなタピストリーともなると、必要な布の分量も多く、現在市販されている布の中から選んで使用することになります。今売られている布は、長い目で見れば、どれも流行の布ということになります。毎年、毎年、本当に素敵な布がプリントされて、ショップに並べられています。意識的に流行を追っているわけではありませんが、これらの布にも創作意欲が触発されます。気に入った布に出合ったときは、早く家に帰ってこれを使ってあげなければ、と胸がときめきます。しかし、そんなときでも買い込まず、すべて計算してから必要量を買うようにします。大きな作品になればなるほど、トータル的に全体の色合いがきちんと合っていることが大切だからです。

 よほど余裕がある人でない限り、キルト作りにだけ時間をさいているわけにはいきません。私も家事があり、家族との時間があり、そして本を読んだり、旅行をしたりと、時間はいくらあっても足りないくらいです。ですから、キルトワークにおいても、自分なりのスピード化できる工夫を、いろいろ試みています。手縫いが不得意な私にとって、ミシンが得意だったことは、とても幸いでした。パターンのピースワークを始め、ボーダー、パイピングの始末まで、ミシンでできるところは、大いにミシンの力を借りています。実際、キルトはひんぱんに、しかも清潔に使いたいものですから、洗濯に対する耐久性もあって、合理的です。

愛しの孫とのツーショット

愛しの孫とのツーショット


 3つ目に、私は手が空くとスケッチ感覚でパターンのピーシングをし、作りためておきます。少しの端切れも大切にしています。ストライプピーシングやクレイジーピーシングにはぎ合わせたものは、それ自体が1枚布のプリントのような感覚で、さっと作品の中に取り入れることができ、私らしいオリジナルなキルト作りを助けます。限りある人生の、限りあるキルトワークを充実させる、そのためのあらゆる努力や工夫も、また楽しく、私の生きがいとなっています。

園部美知子のパッチワーク「ヴィクトリアン・タイム」
(バッグなどの小物も得意としています)

園部美知子のパッチワーク
「ヴィクトリアン・タイム」 (バッグ
などの小物も得意としています)

 人生の転換期というものは、いつ、どんな形で訪れるのか不思議なものです。パッチワークキルトに魅かれ、習い始めて一年に満たないうちに、早々と賞をいただく幸運が、現在のキルトワークのスタート地点になりました。しかし、この賞はとても大きな自信となりました。いざとなったらどうにか切り抜けられる、という自分の底力を見ることができたのですから。

 最後に、私のキルトワークにかけがえのないものは、多くの人との出会いです。私の未熟な技術を感性の方に導き、見守ってくださった今は亡き野原三輝先生。キルト仲間たちからはいつも刺激と勇気をもらっています。また、私のレッスンを受けに来てくださる生徒さんたちからは、逆にたくさんのことを教わり、助けていただいています。作品を依頼してくださる書籍や雑誌の出版社の方々には、育ててもらっています。最後に私の家族。こんなにたくさんの方々に支えられ、今の私が存在するということを常に心にとめ、今後も素敵な作品を作り出していきたいと思っています。



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