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静岡大学人文学部准教授/小松 かおりさん

静岡大学人文学部准教授/小松 かおり
「バナナから世界を見る」
Profile

小松 かおり/静岡大学人文学部准教授
■お問い合わせ先
〒422-8529
静岡市駿河区大谷836 静岡大学人文学部
Eメール
jkkomat@ipc.shizuoka.ac.jp
ホームページ : http://www.geocities.jp/banana_rnj/



コンゴの村の正月のごちそう。バナナのダンゴが主食

コンゴの村の正月のごちそう。
バナナのダンゴが主食

マンダールの市場で調査中

マンダールの市場で調査中

マンダールの市場で集めたバナナたち

マンダールの市場で集めた
バナナたち

沖縄の島バナナ

沖縄の島バナナ

 バナナといえば、日本では、手軽で安いおやつの代表だ。しかし、世界にはバナナを毎日の主食にしている人たちがいる。

アフリカで料理用バナナと出会う

 私は1991年以降、アフリカの熱帯雨林で人類学の調査をしてきた。コンゴのある村で1年近く過ごしたのだが、毎日のごはんは、バナナをゆでてつぶしたダンゴと川魚か野生動物のシチューだった。シチューの味付けは塩とトウガラシ、たっぷりのヤシ油だ。バナナは、プランテンと呼ばれる料理用の品種で、青いうちに料理すると、酸味の強いサツマイモのような味になる。毎年新しい場所を切り払って火を入れる焼畑で、いろいろな作物と一緒に10種類以上のバナナが混ぜて植えられていた。アフリカの森林地帯では、このようにバナナを主食とする人たちが結構いる。

 日本に帰って、タンザニアで農業の調査をしている友人と話していると、タンザニアのハヤの人たちは、同じく毎日バナナを主食としているのに、料理の仕方も、品種も全然違うことが分かった。ハヤの人々は、70種類ものバナナを見分け、バナナの畑に囲まれた家に住んでいて、主食はバナナと豆のシチュー、酒もバナナ酒、バナナの葉をラッピングや傘に使い、バナナの茎で屋根を葺き、繊維を洗濯物干しのロープにするという。まさしく、バナナと生きる人々だ。

豊かなバナナ文化

 バナナはもともと熱帯アジアが原産地である。コンゴとタンザニアでこれだけ違うなら、バナナ発祥の地アジアと、今でもバナナを主食としているアフリカを比べれば、生業や生活の文化が比較できるのではないか、と考えて、塙狼星、北西功一、丸尾聡のメンバーと、「バナナの足」研究会を立ち上げた。「バナナの足」という名前は、バナナやナマコから日本とアジアの関係を考えようとした鶴見良行の「ナマコの眼」(1990)をもじったのと、バナナがアジアからアフリカへ移動した、ということを象徴するのと、できるだけ自分たちの足で各地のバナナを見て歩きたい、という抱負を込めたネーミングだ。

 チームとしての最初の調査地は、インドネシアのスラウェシ島南部に住むマンダールの地域で、彼らは周囲から「バナナ食い」と呼ばれていた。平坦な土地が少なく、稲作に向かないこの地域ではバナナ栽培が盛んで、たくさんの種類のバナナとたくさんの調理法がある。日本語が堪能なマンダール出身のガイド、ウディンさんの親せきの家にホームステイさせてもらった。朝は市場に行き、市場にあるバナナを買い込んで、名前を聞き、写真を撮った。ある日には、10種類のバナナが買えた。それから畑でそのバナナを探し、葉や苞(花)、仮茎(茎)を観察し、カードを作って、ポラロイド写真を貼り付けていった。これは何に使う?なぜこんな名前なの?どんな特徴がある?それ以外のバナナはないか?と尋ねて回る。そうすると、「あの村のあの家の横に珍しいのがあった」といろいろな人が教えてくれ、そのバナナを探しに出かける。結局、38品種が見つかった。昼過ぎに家に帰ると、私たちが買い込んだバナナが、お菓子や軽食になって供された。毎日違う種類のバナナ菓子や、バナナの花のサラダが出てきた。

 マンダールはインドネシアの人々の多くがそうであるようにイスラム教徒なのだが、ある日、子どもたちがコーランを学び終えたお祭りがあるというのでモスクを訪ねた。モスクに入ると、茎ごとのバナナがモスクの中央に飾ってあるのに驚いた。そのバナナに神が降りてくるという意味があるという。イスラムは偶像を持たないし、モノに信仰を託さない、という紋切り型の知識を持っていた私はかなり面食らったのだが、考えてみれば、イスラム教にしろキリスト教にしろ仏教にしろ、世界のどの地域でも、その地域の文化に溶け込んだ信仰の形があるわけだ。モスク以外でも、マンダールでは供え物には必ずバナナが使われるし、バナナに託したことわざもある。

 結局、4人でマレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、インド、タンザニア、カメルーンの7ヵ国13地域の調査をした。1番少ない地域で8品種、1番多いハヤで73品種が見られ、人々は生で食べたり、料理したり、酒にして飲んだり、薬にしたり、道具を作ったり、実にさまざまな使い方をしていた。実だけでなく、葉も茎も花も根もそれぞれに使い道があった。そしてそれらの栽培法も品種も利用も、地域によって随分と異なっていた。

バナナのもう1つの世界

バナナを踏んで発酵させ、<br />ビールを作る(ハヤ)

バナナを踏んで発酵させ、
ビールを作る(ハヤ)

モスクに飾られたバナナ<br />(マンダール)

モスクに飾られたバナナ
(マンダール)




 ところが、世界で輸出用に栽培されているバナナのほとんどは、「キャベンディッシュ」という1つの種類である。日本で売られるバナナは、ブランド名が異なっていても、モンキーバナナや赤い皮のモラードバナナを除いてほとんどがこのキャベンディッシュだ。キャベンディッシュは、多国籍企業によってプランテーションで栽培され、大金を生み出している。しかし、大量の農薬を使うことや土地や労働力の搾取などの問題が鶴見良行の「バナナと日本人」(1982)によって指摘された。また、東南アジアやアフリカの人々が、自分たちのために作るバナナは、実だけでなく花、葉、茎も用途があるのに、プランテーションのバナナの場合、実以外は不要物だ。バナナはこのように、国際商品と在来の作物という、全く異なる二面性を持っている。

バナナで世界を結ぶ

 日本でも安全で現地の人と対等なバナナを、という運動もある。有機農産物のフェア・トレードを実践するオルター・トレード・ジャパンは、フィリピンのバランゴンという品種を輸入して生協などと提携して販売している。また、「バナナ・グリーンゴールド・プロジェクト」は、バナナの仮茎から化学用品を使わない紙を作ることで、教科書やノート用の紙が足りない国の人々が自分で紙を作れるよう技術を伝える活動を続けている。このように、バナナを通し世界の人々をつなぐ活動について考えるために、シンポジウム「地域を結ぶバナナ」を開催した。「バナナの足」にはその後、四方篝(かがり)、佐藤靖明という若手2人が加わり、現在、バナナの魅力を伝える本を出版すべく準備している。ホームページホームページhttp://www.geocities.jp/banana_rnj/もぜひご覧いただきたい。

 実は、日本にも、古くからキャベンディッシュ以外のバナナがある。沖縄と奄美の「島バナナ」だ。小ぶりで、よく熟させると、何とも言えないまったりとした甘みと酸味と芳香が楽しめる。非常に高価で、おまけにあまりお目にかかれないのだが、沖縄や奄美に旅行された際には、探してみてほしい。豊かなバナナ文化の一端が味わえるかもしれない。



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