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なにわホネホネ団 団長/西澤 真樹子さん

なにわホネホネ団 団長/西澤 真樹子
「標本で残す生の価値」
Profile

西澤 真樹子/なにわホネホネ団 団長
お問い合わせ先 大阪市立自然史博物館
ホームページ: http://www.mus-nh.city.osaka.jp/
動物研究室 和田岳学芸員までメールで
wadat@mus-nh.city.osaka.jp



私たちの博物館最大の骨格標本。大阪湾に流れ着いたナガスクジラ

私たちの博物館最大の骨格標本。
大阪湾に流れ着いたナガスクジラ

道で死体を見つけたら

 もしあなたが運転中、死んだタヌキを見つけたらどうするだろうか。「かわいそう」と横目で見ながら通り過ぎるか、道の端に寄せるか、もしかしたら埋めてあげるのかもしれない。でも、次からは、ぜひ拾ってあげてほしい。用意するものはビニール袋、段ボールか発泡スチロールの空き箱、筆記用具だけだ。

 まず、ハザードを付けて停車。素早く飛び降り死体をビニール袋へ。出血がひどいときはタオルや新聞紙で包んでから入れる。口を硬く縛り、拾得場所・拾得者・日付を書いたメモ、板氷か保冷剤とともに梱包し、近くの自然史博物館に連絡し冷凍便で送るか、持ち込む。これで、死んだタヌキの標本としての第二の人生が始まることになる。

交通事故死したテンの皮むき

交通事故死したテンの皮むき

標本は大事な文化財

 図書館が書籍を、美術館が作品を集めるように、自然史博物館は標本を収集し保管する社会的な役割を持っている。標本と聞くと昆虫の標本箱を連想する人が多いと思うが、鉱物や化石、植物、キノコやコケ、魚などさまざまなものが含まれる。標本は自然の情報を証拠として保存する大切な資料として、美術作品や考古学資料と同じ価値を持つ。

 動物の死体もそのひとつである。自然史博物館には交通事故に遭ったり、窓ガラスに衝突して死んだりした獣や鳥が市民の手によって持ち込まれる。タヌキにキツネ、イタチ、ノウサギといった身近な動物以外にも、近隣の水族館や動物園で死んだイルカやアザラシ、カンガルー、オランウータンやホッキョクグマ、アジアゾウといった大物もやってくる。

初期の活動は夜にこっそり

アカネズミの全身骨格に挑戦

アカネズミの全身骨格に挑戦





 私たち「なにわホネホネ団」は、2003年夏に誕生した“けものと鳥の皮むき&ホネ取り"を楽しむサークルだ。活動拠点である大阪市立自然史博物館に集まる多くの動物の死体を、全身骨格や毛皮、仮剥製といった標本に作り上げるのが活動の柱となっている。結成から3年で200点近い標本を作製し、博物館に納めてきた。月ごとの定期的な活動に加え、海岸にアカウミガメが打ち上げられていると聞けば遠征して回収に行き、時には「出張ホネホネ団・皮むき屋台」と称して科学系のイベントにも積極的に参加。みんなで楽しく作業しながら、解剖や皮なめしの技術向上を目指している。

 そんなホネホネ団ではあるが、最初からこんなににぎやかな団体ではなかった。

 動物の標本作りにはとにかく時間と手間がかかる。一体を毛皮・骨格・内臓などに分けて保存するため、それぞれ別の処理が必要だからだ。腐敗が進んだ状態ではきれいな毛皮はとれないし、時にはウジなどの「先客」と戦わなければならないこともある。そんな骨を茹でればもちろん臭い。初期のメンバーは5名にも満たず、その臭いと作業の見た目から夜間の活動が主で、何となく地下組織のような雰囲気であった。明らかにマイナーな団体だったのである。

和歌山県友が島まで漂着したアカウミガメを拾いに出掛けた。青いシートの中身は甲羅

和歌山県友が島まで漂着した
アカウミガメを拾いに出掛けた。
青いシートの中身は甲羅

子供に受けて一気にメジャー化

 ところが、2004年春に開催された博物館の文化祭「大阪自然史フェスティバル」に毛皮や骨を出展したところ、子どもたちに大受け。出展に合わせて付けた団体名も好評で、「なにわホネホネ団」はお気に入りブース第2位の栄光に輝く。それからは、募集もしていないのに入団希望者が次々に現れ、2006年9月現在、団員数は60名を超えさらに増加中。年齢は7才から60代までさまざまだが、10代が約半数を占め、女性が多い。学生、デザイナー、ガスの技術屋さん、画家、考古学関係者、獣医に歯科医、主婦、図書館司書など、仕事が骨に関係のある人もない人もやってくる。共通点は標本作りが好き、動物が好きということ。

 大人でも子どもでも、入団資格は「タヌキをひとりで1頭むける」。解剖にかかる時間は実にさまざまだ。手先の器用さやコツの掴み方にあまり年齢差はないらしい。経験上、最初からすいすいむける年代は、実は小中学生の女子だったりする。最もダメな年代は小学生と大学生男子。最近見学に来た大学生をまとめてひとつのテーブルで作業してもらったのだが、周りがどんどん進行していく中でそこだけ時が止まったかのようだった。熟練した団員が1時間半でむけるものに7時間以上かかり、集中力が切れるのか時折死体の横で寝てしまう。小学生男子は飽きっぽく、気付くとどこかに消えている。また、本物の血や臭いに比較的弱いのも特徴だ。

無口な死体が語ること

動物園で死んだ大型獣も標本に。なめし皮と記念撮影

動物園で死んだ大型獣も標本に。
なめし皮と記念撮影

 標本作りは1にも2にも根気と器用さ、3、4がなくて5に体力である。ついでに目の前で起きていることを楽しむ心が大切だ。筋肉の走りや体の構造に眼を見張り、毛皮の色や手触りを楽しみ、出血の場所から怪我の様子を推理していく。体に付いた小さな種は、植物が誰にどうやって運ばれるのか知らせてくれるし、胃内容を洗い出せば直前まで食べていたものが見えてくる。

 死体はものを語らないが、読み取ろうとする者にはぽつぽつと自分の人生を語ってくれる。虫歯でひどく苦労したこと、皮膚病で毛がほとんど抜けてしまったこと、何回も事故に遭い骨折したこと。子宮に残る胎盤痕が、一生で産んだ子どもの数を教えてくれるかもしれない。

 こうして知り得たさまざまな情報は、骨格や毛皮の標本とともに記録され、博物館に永久に保管される。

団員の作ったコイの骨格標本

団員の作ったコイの骨格標本

科学系イベントに出展。「けものの皮むき屋台」

科学系イベントに出展。
「けものの皮むき屋台」




集まれホネ仲間-ホネホネサミット200X-

 私にはふたつの夢がある。近い未来の夢と、ずっと先のそれだ。まずは数年以内に「ホネホネサミット200X」を開催すること。これは日本中で地道な標本作製活動を続けている個人やサークルを招き、培った技術を共有し、情報交換をすることが目的である。それぞれの自慢の1品を展示してもらってもいいかもしれない。最近、アート関連の企画展やデザインの分野でホネが取り上げられ、知名度を上げつつあるといっても、骨格標本や死体に興味を持つ人はまだ日陰の存在だ。このサミットで「ホネはすてき!死体は宝物」と宣言したい。普通の市民が死体の大切さを知り、動物の死を無駄にしない技術をより多くの人が手にすることができたらどんなにいいだろう。

 もうひとつの夢は私がおばあさんになったとき、ちょっと年下のおじいさんやおばあさんになった今の団員たちと一緒に、博物館に「標本詣で」に行くことである。収蔵庫にきちんと並べられた標本を眺めながら、みんなと微笑み合う姿を想像して今から顔が緩んでしまう。

動物の不思議を楽しみながら

 人知れず死に、忘れ去られてしまう存在である動物の死体。私は技術も知識もまだまだ未熟で、死体から見落としてしまう情報もたくさんある。せっかくの資料を十分に活かしきれていない現実に、歯がゆい気持ちになることもしばしばだ。これからも修行を重ね、死体を読む技術を磨いていきたい。そして大人から子どもまで、たくさんの人たちと動物の体の不思議を楽しみ、ひとつでも多くの標本を未来に残したい。そう思っている。


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