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造形作家/齋藤 由加さん

造形作家/齋藤 由加
「ものつくる幸せ」
Profile

齋藤 由加/造形作家
1972年生まれ。1996年武蔵野美術大学造形学部彫刻学科を卒業。現在は埼玉県美術展審査員・創型会同人。齋藤彫刻工房として個人の制作のほか、モニュメントや記念品の製作をする傍ら陶芸やイラストなども手掛ける。
「齊藤彫刻工房」http://homepage2.nifty.com/saitoh-koubou/
「ものつくるねこ」http://www5f.biglobe.ne.jp/~mononeko/
「かめねこ屋」http://www.kamenekoya.com



「地の心III~期待~」埼玉県立浦和青年の家所属

「地の心III~期待~」
埼玉県立浦和青年の家所属

1.「造形作家」は重宝な肩書き

 私が職業を聞かれたとき「ものつくりです」と答えると「ものつくりって何を作るのですか?」と聞かれます。私は「作れる物は何でも」と答えますが、相手の方は馬鹿にされたと感じるかもしれません。これを「造形作家です」と答えると、相手の方は納得し、感心してくださいます。

 実際、自分はなんでも屋のようなものだと思っています。軽合金の巨大なオブジェから、姪や甥のための小さな紙凧まで、何でも作ります。絵も描きます。舞台用の巨大な背景幕から、母の作ったジャムの瓶に貼るラベルまで、何でも描きます。壊れた物の修理もします。

 極めればそれぞれそれだけで立派な職業になるのかもしれませんが、私の技術はそこまで完成されていないものばかりで、陶芸家や舞台美術家などと称する自信はありません。強いて言えば彫刻家かもしれませんが、それだけなのはしっくりこない。ものつくりが1番心地よいのですが、そういう職種は世間にないらしい。そこで造形作家という素敵な肩書きを掲げている訳です。でも造形作家と称しておられるほかの方々が、そのような訳ではないので、誤解のなきようお願いします。

2.造形制作は手悪戯から

「習作 地」

「習作 地」

 私の父は彫刻家で、高校の美術教師もしていました。母も中学で美術を教えていた人です。ただし両親は、子どもにその道を勧めたり、指導をするようなことはありませんでした。それでも目の前で制作する父の傍らで遊ぶ日常でしたので、いつの間にか美術の方向に進んだのは、自然な成り行きでしょう。 

 父のアトリエは私の格好の遊び場でした。そこにはありとあらゆる悪戯材料がごろごろしていました。素材や道具への興味と悪戯心は、子どものころから常に失ったことがありません。

 例えば刃物。鋏に始まりカッター、鋸、ディスクグラインダーなどの電動工具に至るまで、新しいものが使えるようになるごとに、悪戯できる素材の範囲が広がっていきます。そして欠かせないのが接着剤。水のりや木工ボンドから合成ゴム系接着剤と進んでいき、2液混合のエポキシ樹脂接着剤を知ったときの喜びは感動的でした。物を切りそして付ける。ものつくりの基本はそこから始まります。

 欲しい物はとりあえず作ってみること、新しい道具や素材はなるべく触ってみること。思いつきの創作で、思いがけないものができあがったりもします。それがものつくりの醍醐味です。

3.父は師であり悪友

	「初夏の羽翼」

「初夏の羽翼」

 今はフリーになり、父のアトリエに居候しています。彫刻などの制作には、かなりの大きさの制作スペースと設備、倉庫、騒音や多少の煙などを出しても大丈夫な環境が必要であり、普通はそれがなかなか手に入らないのですが、私はその点非常に恵まれていました。

 そのアトリエで父が70年代に始めた、スチロール原型によるアルミ鋳造彫刻を、私もメインの素材にしています。スチロールを原型に使う鋳造は、ロストワックス法という鋳造方法の応用です。ワックスの代わりの発泡スチロールを削りだして作った原型を、型用の砂で埋めて固め、その型に原型の入ったまま溶けた金属を流し込みます。すると熱に弱いスチロールは溶けてしまい、型の中に金属が残るのです。

 父が培った原型加工の技術を、私なりに改良しつつ、父とは違う作風を目指し、独自の抽象彫刻を創ってきました。まだ学ぶことが多い師匠ですが、互いの作品の制作を手伝い、批評をしあうライバルでもあり、思いついた悪戯を共に試す仲間でもあります。

4.作品の元ネタは散歩道に

	「風の眼~孕空」文部科学大臣奨励賞作品

「風の眼~孕空」
文部科学大臣奨励賞作品

 私の彫刻作品は、全体に有機的な曲面の多いフォルムを持っています。シリーズとして植物などの形態をモチーフにした「地の心」シリーズと、自然現象や水、風などの力を表現する「風の眼」シリーズなどがあります。

 子どものころから外を雑草や畑の作物に触れ、虫と遊びながら、自然のかたちに親しんできました。私の創るかたちはそういったもの全てがモチーフです。今でもデザインに悩めば外に出て、写生をしたり写真を撮ったりします。そしてそのモチーフをそのまま写すのではなく、魅力的だと感じる部分をよりよく表現するように、バランスを考えながら構成していきます。スチロールの端切れで試作をしていくうちに、最終的に触れて気持ちのよいかたちになるように、心がけます。制作中にも削りながら全体をなで回します。そうすると、この感触だと思うような面ができてきます。それは例えば猫の背中を撫でたときの感触であったり、花びらに触れたときの感慨だったりするのです。

 こういう表現をするのに、スチロールはとても向いた材料といえます。軽く柔らかく、残った端材も容易に再生材料になるので資源的にも無駄が少ない。また鋳造後のアルミは素材として強く、ほかの金属より軽めで、腐食にも強く耐候性があり、置く場所を選ばないよい素材です。

 私は触られることも考えて作ります。手で触れて曲面やテクスチャを確かめることで、立体作品はよりダイレクトに多くの情報を伝えてくれると思うからです。

アトリエでのスチロール原型制作風景

アトリエでのスチロール原型
制作風景

5.美術は誰にも身近なもの

 今はアートといっても範疇が広がり、独自の表現をする人誰もが、アーチストと自称できる時代になってきたようです。しかし意外に美術作品、特に純粋芸術(ファインアート)に対しては、未だに苦手意識を持つ人が多いように感じます。美術展などでも、「これはどのように見たらいいのでしょう?」という質問をする人を見かけます。ですが、普段音楽を聴くとき、その作曲者がどんな人でどういう意図で作曲したか、意識して調べてから聴くことが度々あるでしょうか?視覚芸術作品にも本来は感じるままに鑑賞するものです。優秀とされる作品でも何も感じるものがなければ素通りしてよいと思います。

 なので私は常々、素通りされずに、自然に目に留めてもらえるものを創りたいと思っています。見方が分からない、とおっしゃる方には、「何に見えますか?」とお聞きします。そうして連想していただいた上で、この作品に親しみを感じてくださった方が、私のことを知りたいと思ってくださったときには、喜んでいきさつをお話しします。みなさんがそういう気楽な感覚を持って、自分の生活の中に気軽に美術作品を取り入れられるようになってくれるのが、私の願いです。

 美術品といって気構えることなく、手作業で生まれたいろいろなものたちを、生活に取り入れて、より奥行きのある暮らしに役立ててもらいたいものです。そうしたらきっと、創る側の人間もより研ぎ澄まされて、すばらしい作品がたくさん生まれていくでしょう。

 私もものつくりとして、世の中でそういう役割を果たしていけるよう、彫刻に限らず、日常に役立ついろいろなものに新しいフォルムを与えて、より気持ちのよいものづくりを続けていきたいと思っています。



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