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190号 注目の人 ファッション・エッセイスト/フランソワーズ・モレシャンさん

「収納にも人生にも、自分に厳しく!『厳しい』はポジティブな言葉です」
フランソワーズ・モレシャン/ファッション・エッセイスト
Profile

フランソワーズ・モレシャン/ファッション・エッセイスト
パリ、モンパルナス生まれ。
ソルボンヌ大学日本語学科を経て1958年初来日。
NHK 「楽しいフランス語」講師、お茶の水女子大学フランス語講師などを務め、1964年帰国。
その後レブロン社、ディオール社を経て1974年にシャネル美容部長として再来日。
ファッション・アドバイザーとして各メディア、講演会などで活躍。
また、ライフスタイル・プロデューサーとしてインテリア、テーブルセッティングのコーディネートや、和食器、宝石のデザインなども手がけ、生活全般のおしゃれを提唱。著書「ラ・ガイジン」(講談社)は1990年にフランスで発売され、ベストセラーになる。
2004年、長年の日仏文化交流などの功績が認められフランス政府より「レジオン・ドヌール勲章」を叙勲。共立女子大学客員教授。フランス政府対外貿易顧問。外地在留フランス人評議会北アジア代表。(社)日本ユネスコ協会連盟スペシャルアドバイザー。


戦時下、バレエに心癒された少女時代

日本に来たばかりのころ TV番組収録中

日本に来たばかりのころ
TV番組収録中

 私の人生におけるスタートは、戦争の暗く怖い思い出に染められています。生まれ育ったパリがナチス・ドイツに占領されたとき、私の両親はユダヤ人の子どもたちを家にかくまいました。ゲシュタポの影におびえ、おなかをすかせる日々…。幼年期に作られたこの精神の傷は、一生涯治らないでしょう。やっと平和が訪れた15才のとき、「平和ってすごい!」と感じました。夜中にドアを叩かれず、安心して眠れる人生がどれだけすばらしいことなのか、想像がつきますか?私は明るい性格だけど、こうした暗い出来事を知った上での「明るさ」なの。ですから、皆さんのいう明るさとはちょっと違うんです。

 暮らしも決して裕福ではなかったですね。父が病気になり、母の給料で生活せざるをえなかった。お肉とチーズを同時に買えないくらい生活は苦しかったけど、母はなんとか工夫して乗り切っていたのを覚えています。

 そんな私を慰めてくれたのが、戦時中の5才のときから習い始めたバレエ。イザドラ・ダンカン氏による“自由なクラシックバレエ”は、あらゆる自然を真似して踊るもの。岸壁にぶつかる波の丸い形や、風にそよぐ枝の動きなどをからだで表現するんです。あれは魂がたっぷり入った、すばらしい教育でした。今でも私の仕事に大きな影響を与えています。

 なぜ日本に興味を持ったかというと、未知の文化を知りたかったから。美大の先生だった母の影響でヨーロッパの文化を深く学んでいたので、それとは違う精神や文化を知りたくなったのね。それも絵、音楽、美術、建築など、ひとつのことを専門的にではなくて、文化全部をグローバルに。そうでないと100パーセントの人間になれないと思ったから。

 こうしてソルボンヌ大学の日本語科で勉強したんですが、当時日本語を学ぶ学生はたったの15人でした。初来日は1958年。そのころは日本に来るのも大変でしたよ。高額な渡航費用、そして南回りの飛行機で24時間もかかった。今みたいに1万メートルも高いところを飛べないから、フランスから日本までの景色を窓から全部眺められました。下界に広がる砂漠やピラミッドなどの風景…。文化の発展の有様が分かって、これはすごい勉強になりましたね。今皆さんがパリへ行くとしたら、真っ暗のなか寝ているうちに着いて、エアチケットも10万円とかそのくらい。国内旅行より安いかも(笑)。

 日本のことはよく勉強してきたから、来日して特に驚くことはなかったですね。国が違うのだから、文化も違ってあたりまえ。ただちょっと困ったことといえば、家庭でなく外でいただくお食事。日本料理のコースではおかずが最初に出てきて、ご飯は最後にやっと出てきますよね。フランス料理ではパンも一緒におかずと食べるから、最初はこの習慣になかなか慣れなくて。「おなかがすいた、早くでんぷんをちょうだい!」と叫び出したい気持ちだったわ(笑)。

収納は、人生の宿題のひとつ

幼少のころお母さまと一緒に

幼少のころお母さまと一緒に

 日本に来ても生活費は十分でなくて、最初に暮らした下目黒の家はとても狭かったです。でも私はあきらめないタイプだったから、実家の母同様いろいろ工夫して乗り切りましたね。

 今、収納について皆さんにアドバイスしている私も、若かったときはとても収納下手だった。いろいろと苦労しながら努力してきたのよ。

 たとえば食器を収納する際困ったのは、もらいものの半端なお揃いのカップ。2個のペアカップは、実際にはあまり使わない。3個でもお客さんに出すには足らない。こうした片付かないたくさんの半端な食器、カップの山を前に猛烈に悩みましたね。気持ちはクタクタ。3日間精神安定剤を飲んだくらい(笑)。そうこう悩むうち、あるとき食器の使い道が「見えて」きたんです。そして収納の方針が決まった。テーブルコーディネイトしやすい白い食器、そしてホームパーティーで使える8個そろったカップだけ残そう、と。こうして「使えるもの」と「使えないもの」を分け、半端な個数の揃いの食器はすべて人にあげました。また洋服も自分の色は「黒」と決め、これを守りました。自分のライフスタイルを決めて、すっきり片付けたんです。

 「うまく片付かないのは、家が狭いから」という考えは大間違いですよ。収納とは頭とエネルギーをすごく使う、人生の宿題のひとつと思ってほしい。自分のライフスタイルをコントロールできずに、人生を犠牲にするなんてバカバカしい。自分のことが好きであれば、自分にもどんどん厳しくしたほうがいいです。

 すっきり収納し直すには、まず入っているモノを全部取り出して、それらを厳しい目で見つめて。そして2~3年使わなかったものは、捨てること。「捨てるのは、なかなか難しい」ですって? でもね、人生はすべて「なかなか」なのよ。旦那さま選びだって「なかなか」難しいだろうし、服の色を決めるのも「なかなか」だし、人生も「なかなか」難しい。でも「なかなか…」と言い訳ばかりで真実をまっすぐ見つめられずに逃げた人は、人生に成功しない。人生は真実を直視することから始まるの。収納イコール厳しいもの、人生とは努力と肝に銘じて取り組むといいんじゃないかしら。

 片付かないモノは、血管の中の余分なコレステロールと同じ。人生の楽しみは収納から。うまく収納できれば、家中の空気の流れが良くなって、気持ちもさっぱりしますよ。

良い環境で、子どものセンスを育てる

 皆さんの中には小さい子どもを持つ若いお母さんもいらっしゃるでしょう。お洒落もできないそんな時期の服の収納法は、たとえばセーターなら毎日使うものを前面に出し、おでかけ用は奥にしまって。すべて同じ場所にしまっていると、取り出すたびに不便です。

 それからお子さんを持つ方にどうしてもお願いしたいことがあります。それは、子どものために良いインテリアを置いてほしいということ。

 灯りも蛍光灯でなく、傘つきのランプにすると、人間らしい温かみのある雰囲気になります。



 先日4才のお子さんを持つお母さんが、天井の蛍光灯しかなかった部屋に、1個の傘つきのランプを置いてみたそうです。すると、そのたった1個のランプに、子どもがとても喜んだという。素敵な灯りが、子どもの心を溶かしたのね。

 このように子どもは大人以上に、環境や雰囲気に敏感。だから素敵な環境はたくさんのおもちゃより、子どもにとって最高のプレゼント。
自然に良いセンスも育っていきます。特に3才まで、または12才までに素敵な環境を作ってあげると、大人になっても趣味が良くなるのよ。お母さんの責任として、お子さんの環境作りにぜひ取り組んでみてください。

 たとえその予算がなくても、工夫して取り組もうとする気持ち、それが1番大切です。その気持ちこそが、愛情の証拠なのです。

エスケーピズムと猫で気分転換

 13年前から石川県の加賀で「もれしゃん塾」という、トータルなライフスタイルを学ぶ活動を主宰しています。今では地元でネットワークもできて、東京よりも加賀のほうがお友だちは多いくらいね。

 パリにも仕事でよく行きます。先日もパリで開催されたインテリアデコレーションの大展示会で、九谷焼を使ったテーブルセッティングをプレゼンテーションしてきました。

 1日中さまざまな仕事をしているので、くつろぐ時間は取れないですね。これまで人生の中で興味あることが仕事になってきたし、仕事とプライベートの境はあまりない。楽しみだったバレエ鑑賞も、エッセイの連載を引き受けたらプレッシャーになっちゃった。ああ、私の人生はプレッシャーだらけ(笑)。クタクタになった夜は、バカバカしい映画やテレビ番組を見て、頭を空っぽにします。何よりも心いやされるのは、2匹の猫と遊ぶとき。とても嫌な問題があっても、「うちで猫が待っている」と猫の顔を思い浮かべるだけでホッとするの。主人の顔、じゃなくてね(笑)。

 多忙で不健康な毎日だから、年に2回、2週間程度はメールも届かない世界へ逃げることにしています。日常からエスケーピズム(逃避)するわけ。今年の年末年始はバリ島に滞在し、水泳、エアロビなどで思いっきり身体を動かしてきました。日本では2週間も休みを取れない?それは取れないのでなく、取ろうとしないのでは?思い切りリフレッシュすれば、頭も回り出します。疲れた人間のままでは、お役に立てないのよ(笑)。

今1番大切にしたいのは、友情

25才のころ自宅にて

25才のころ自宅にて

 これからの夢は、森英恵さんなど、社会に対して同様のビジョンを持つ人たちと、その夢に向かって進んでいくことですね。かといって、「手を携えて一緒に夢を達成しよう!」というわけではない。ときたま「元気ですか?」とお話ししたりコミュニケーションしたり。そんな時間が私にとって何より大切なの。反対に夢を持っていない人とは、私は付き合えない。

 私にとって家族への愛も含めてすべてベースになっているのは“友情”。信頼感をベースに友情を温め合う。これが今1番大切にしたいこと。この思いは10年前より強くなっていますね。

 これからの時代、未来に変な希望を持たずに生きていくほうがいい。日本人は真実を見たがらないけど「つらい時代が来る」と知っていたほうがいいですよ。

 今の人はホンネを言うのが下手になりましたね。話すことはお天気の話題のようなことばかり。かつて私が初めて訪れたころの60~70年代の日本には、すばらしいパーソナリティーを持った人がたくさんいて、彼らはホンネを上手にはっきりと言っていました。でも80年代のバブル時代から変わってしまった。「ホンネなんか言ったら失礼じゃないですか‥?」という雰囲気に。 

 でもね、ホンネを丁寧に礼儀を守りながら相手に言うことは、その相手を尊敬し、信頼している証拠なの。タテマエばかりでは、「信用していない」と言っているようで真の意味で相手に失礼。本当のコミュニケーションは生まれず、みんな孤独なまま。素敵なホンネでいかないと、これからの社会はうまくいかない気がしますね。

 収納、人間関係…すべて「自分に厳しくあれ」がキーワード。80年代は自分に厳しくしなくても生きていけたけれど、今はもう違う。「厳しい」って言葉はネガティブじゃない。すばらしいポジティブな言葉なんです。うん、「キビシイ」っていい言葉ね。このタイトルで今度、本を1冊書こうかしら(笑)。 (港区のフランソワーズ・モレシャンさんのオフィスにて取材)



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