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173号 注目の人 元全日本バレーボール選手/三屋 裕子さん

「スポーツでコミュニケートする楽しさ、知ってますか?」
三屋 裕子/元全日本バレーボール選手
Profile

三屋 裕子/元全日本バレーボール選手
1958年、福井県生まれ。
勝山中学、八王子実践高校、筑波大学とバレーボールで活躍し、1979年に全日本入り。
1981年に日立バレーボールチームに入団。
さわやかな笑顔と高さのあるシャープな攻撃で、1981年東京ワールドカップで人気沸騰し、女子バレーブームに火をつけた。
モスクワ五輪はボイコットに涙を飲むが、ロサンゼルス五輪で銅メダル獲得。
オリンピック後、教職の道に進む。バレーボールの普及や講演のほか、CMなどテレビ・ラジオでも活躍し、政府の各種委員なども務める。


感じます。スポーツの新しい時代の始まり


 日本人のスポーツの楽しみ方が、最近、少し変わってきたように感じています。野球のイチロー選手やサッカーの中田選手といった、海外で活躍するスポーツ選手たちは、これまでの私たち日本人が描いてきた、優秀な選手像、つまり縦社会に順応して成果を収めてきた優等生的なスポーツ選手と、ちょっとイメージが違う。

 みんなどことなく、“小生意気”に見えませんか?

 彼らに共通しているのは、自分というものをしっかりと持ち、スポーツに対する自分の考えを周囲にきちんと主張しながら、日本を極め、世界を舞台に活躍しているということです。

 日本人って、ポリシーをもって行動している人を見ると、なんか小生意気に感じてしまうところがまだまだありますよね。

 スポーツの世界は縦社会の典型ですから、自己主張する彼らは、余計に過去の従順な選手たちと比べて個性が際立って見えてきます。しかし、世界で通用するプレーヤーになろうとすれば、やはり自分というものをしっかり持ち、またそれを主張するコミュニケーション技術も身につけていないと通用しないのも事実です。私自身、このことは現役時代、いろんな国の選手たちと交流する中で実感していたことでもあります。

 イチロー選手や中田選手たちが現われてきたとき、日本にもこういう選手が出てくる時代になったんだと、ちょっとうれしかったですね。

 盲目的に指導者に従った世代は、私たちぐらいが最後で、イチロー選手や中田選手に憧れてスポーツを始める子どもたちが主力になるころには、日本のスポーツ選手の意識や指導現場は、いい意味で変わっていて欲しい。

 彼らの“小生意気”なやり方が、長い間日本のスポーツ選手にとって壁だった、世界へ扉を開いた鍵だった、と言えるんじゃないでしょうか。

心理が開く指導者と選手の新しい関係性

ママさんバレーの指導にて実演中(群馬県)

ママさんバレーの指導にて実演中(群馬県)

ママさんバレーでの熱のこもった導(群馬県)

ママさんバレーでの熱のこもった導(群馬県)

 最近、「臨床心理」について少し勉強しています。 身体を使うスポーツと、心を扱う心理。一見、対照的なこの2つを結びつけることで、スポーツ指導の現場が大きく変わっていくような予感がしています。 日本のスポーツ指導の現場、地域のスポーツクラブや学校の運動部、社会人チームの指導現場は、まだまだ、コーチや監督の指導が「絶対」という環境です。しかしこれは、コミュニケーションとして見たとき、One way、一方通行なんですね。コーチが選手に一方的に指示を投げかけているばかりで、選手はひたすら、そのとおりに動いている。つまり、双方向のコミュニケーションが成立していないところで指導が行われているんです。

 選手が指導者に対して持っている言葉は、「はい」だけ。コーチが「なぜ打たなかったんだ」と聞いても、選手は「はい」と答える。普通のコミュニケーションから考えると変なやり取りなんですが、スポーツの現場では、これが普通のやり取りなんですね。

 スポーツ指導の現場では、「選手からコーチへのエクスキューズはない」ということが前提のようになってしまっています。これって、おかしいですよね。選手自身の主体性をもっと導き出すには、ほんとうは双方向のコミュニケーションが不可欠なはずなんです。

 バレーボールの現役選手時代、よく記者の方から「なぜそんなに一生懸命に、バレーボールをやっているんですか?」と聞かれました。「バレーボールが大好きだからです」なんて、当時はそれなりのことを言っていましたが、今から思うと、「コーチに叱られるのが嫌だ」というのが1番の動機。だからあるところまでやると燃えつきたり、早くやめたい、と思うようになってしまう。

 優れたコーチや監督が国内のスポーツ界にもいらっしゃるけれど、これからの時代、こうした従来の関係性の中だけでスポーツを指導していくのは、限界じゃないのかなぁ、と思っています。



カウンセリング技術を取り入れて

  臨床心理の世界には、こうした双方向コミュニケーションのための知識や技術がたくさんあり、私自身が考えるスポーツ指導に生かせるヒントの宝庫です。

 最近知った「バック・トラッキング」というカウンセリングなどで使われる技術も、とてもいいコミュニケーション・テクニックで、スポーツの現場だけでなく、家庭でも使えますよ。

 例えば子どもが、「お母さん、野球やめたいんだよ」と言ってきたとします。そのとき「何言ってんのよ、がんばんなさい」というのではなく、「そうか、やめたいのかぁ…」と子どもの言ったことをオウム返しして相手に返すんです。こうすることで、相手の気持ちを聞くという姿勢を見せて、受け止めながら徐々に会話を進めていく、そういう技術なんですね。

 コーチと選手、親と子もそうですが、私たちの日常のコミュニケーションというのは、いろんなものを削ってしまいがちですよね。その結果、大切なことを共有しないで行ってしまうことって、多いじゃないですか。

使えるスポーツ施設をもっと増やそう

日立の選手時代

日立の選手時代

 地域で、家庭に入られた主婦の方やリタイアされた高齢者の方が、生涯スポーツとして運動を楽しまれるケースが増えてきています。皆さんとても楽しそうですよね。子どものスポーツ少年団やプロなんかよりも、ずっと上手に、マイペースでスポーツを楽しまれているように思います。

 地域でスポーツをするとき、特にバレーボールや野球やサッカーといった団体競技をする際に問題になってくるのが施設。

 日本は、あらゆる学校に運動場と体育館があって、公共のスポーツ施設がこれほどたくさん整備されているのに、一部の人にだけしか活用されていない状況で、ほんとにもったいないことだと思います。

 外国に比べて日本のスポーツ施設は遥かに豊かなのに、一部の人だけしか利用できないシステムになっていたり、利用方法が複雑だったり、スポーツ振興という点からも、何とかならないものかと思いますね。ややこしい団体登録や申込手続きや抽選のシステム…、とにかく利便性が悪すぎます。少し改善して、柔軟な利用環境を整えるだけで、ずいぶんスポーツ人口は増える気がしますね。

生涯スポーツに親しむための風土づくり


 先日、60才以上の方たちのバレーボール大会を見てきたんですが、和気あいあいと生き生きとプレーを楽しまれていて、なんていいムードなんだろうと思いました。

 意外と知られていないんですが、バレーボールは、もともと高齢者のためにアメリカでつくられたスポーツなんです。競技性が強まって、今ではとても激しいスポーツのようなイメージがあるようですが、元々はそうではないんですね。ですから実は、子どもからお年寄りまで、それぞれに楽しめる種目なんですよ。 生涯スポーツでは、学生時代にやっていたスポーツとは違った種目をやられる人も多いですよね。私もそうなんですが、バレーボールをやるとやっぱり猛烈にプレーしてしまうんですね。楽しむことよりも、勝つことに執着してしまって、豊かに楽しめない。これって何なのかなぁ、と思うのですが、やっぱり、学生時代からプロまでのバレーボールに対する取り組み方の影響が大きいような気がします。

 元オリンピック選手や全日本選手で現役を引退した若手のバレーボール指導者を、春の高校バレー大会の出場を目指す全国29の高校に派遣する、コーチングキャラバンというのを数年前からやっているんですが、私が1年目に教えた子どもたちは、「高校卒業したら、もう絶対バレーはやらない」といっていたんですね。でも2人が大学で、1人は実業団で、今も3人がバレーボールをやっています。

 優れた技術を持った選手を育てる前に、バレーボールが楽しい、バレーボールが好きだという選手をまず育てたい。そのために、いま私も勉強しています。



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