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本音のエッセイ

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336号 東北大学 加齢医学研究所 所長 川島 隆太さん

あな、おそろしや すまほ

東北大学 加齢医学研究所 所長 川島 隆太さん

東北大学 加齢医学研究所 所長 川島 隆太

川島 隆太/東北大学 加齢医学研究所 所長

1959年千葉県生まれ。東北大学医学部卒業、脳機能イメージング研究に従事。2001年に東北大学教授、14年より現職。著書に『元気な脳が君たちの未来をひらく』(くもん出版)、『さらば脳ブーム』(新潮新書)など。

 最近、出張先で意識して歩くようになり、街中で人々の生態を観察する機会が増えた。ベビーカーを押しているお母さんやお父さん、ベビーカーの中から、つぶらな瞳がじっと顔を見ているのに気づかずスマホに夢中。私が代わりにほほ笑みかけても、怪しいおじさんの笑顔には赤ちゃんは反応せず。散歩中の親子連れ、手をつないだ子どもが顔を見上げているのに、これまた親はスマホに夢中。これじゃあ、この子たちは、どう頑張っても人の気持ちが分かる人間には育たない。そんな親子連れをたくさん目にすると、うちの孫娘は大丈夫だろうかと、ちょっと心配になった。

 電車に並んで座っている親子連れ、親はスマホに夢中。景色を見飽きた子どもが話しかけても、親はスマホの画面をにらみつけたまま。こじゃれたレストランのテラスでデート中のカップル、料理が冷めるのも気にせず、お互いに見つめあいもせず、下を向いてスマホに夢中。大切な時間が目の前で溶けてなくなっていることになぜ気付かない。

 仙台市の小中学生全員を調べてみたら、スマホを1時間使うごとに、4教科合計で約15点テストの点数が下がることが分かった。解析をすると睡眠時間や勉強時間とは関連がない。3年間の追跡調査の結果、スマホを使ったことによって、脳の中の記憶が消えたとの結論に達した。家で2時間以上も勉強する頑張る子たちが、スマホを3時間触ったばかりに、全く勉強しない子どもより成績が悪くなる。努力が水の泡になっている。

 スマホを手放せない人の脳は、薬物中毒の患者と、同じ活動パターンを示すらしい。考える力がどんどん低下しているとの指摘も教育関係者からよく聞こえてくる。スマホは、人々に怠惰と享楽を与え、考えることを放棄させ、支配を容易にする。やっぱり麻薬と一緒か。でも、いったい誰が得をするのだろう。

 去年、スマホがどれだけ脳に悪影響を与えるのか、自らを使って生体実験をしてみた。スマホを購入、ポケモンGOをインストール。地元でやると、誰かにツイートされて、東北大学教授の名を汚したと揶揄(やゆ)されそうなので、出張先でこっそりプレイ。気付くと、いつの間にか、ポケモンGOのために寄り道をして長い距離を歩くように。健康にはプラスの影響とメモ。先日、孫娘に会いに東京に行ったとき、スマホに気を取られ、一足早く咲いている桜があるのに全く気が付かなかった。

 あ〜、ミイラ取りがミイラになった。

 あな、おそろしや。

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