Wendy-Net トップページ > 本音のエッセイ > BackNumber >探検家・医師 関野 吉晴さん

本音のエッセイ

320号 探検家・医師 関野 吉晴さん

「一からカレーライス」

探検家・医師 関野 吉晴さん

探検家・医師 関野 吉晴

関野 吉晴/探検家・医師

1949年生まれ。75年一橋大学法学部卒業。82年横浜市立大学医学部卒業。93年から2002年にかけて「グレートジャーニー」に挑んだ。04年からは「新グレートジャーニー 日本列島にやって来た人々」をスタート。著書、写真集多数。1999年植村直己冒険賞受賞。武蔵野美術大学教授。

 大学で「文化人類学」と「人類史」の講義を受け持っている。一度インドネシアから日本列島に手作りカヌーでやってくるというプロジェクトに学生、卒業生を誘ったら200人近くが参加した。120キロの砂鉄を集め、300キロの炭を焼き、たたら製鉄をして鋼を作り、刀鍛冶、野鍛冶に協力してもらってオノ、ナタ、ノミ、チョウナを作り、それをインドネシアに持って行って、大木を切り、カヌーを作り、そのカヌーでインドネシアから石垣島まで4700キロを航海した。

 たたら製鉄をするために金属工芸研究室の工房を借りた。そこに窯を作り、ふいごを踏んで風を送らなければならない。電気送風機を使いたくないのでふいごも作った。シーソー式のふいごで2人ずつ交互に踏む。徹夜で26時間、交代で仮眠をとりながら踏んだ。

 たたらを踏んだ学生は皆卒業してしまったが「かつて学内でたたらを踏んで製鉄をした」という伝説は残っていた。そのため「私たちにもたたら製鉄をやらせてください」「オープンキャンパスでたたら製鉄をやりませんか」とよく尋ねられた。

 「新しいカヌーの需要があればやってもいいが、たたら製鉄だけをするのはねえ」と言って断ってきた。そのかわりに「素材からすべてカレーライスを作らないか」と提案した。皿は土器か木器で、コメを苗から育て始めて、畑で野菜、生姜、トウガラシ、ウコン、コリアンダーなどの香辛料を、海水から塩を作る。

 ビーフカレーを食べたいなら子牛を育てるところからやったらと言ったら、チキンカレーでいいと言う。ウズラを育てたグループもいたが、猫に襲われ食べられてしまった。結局12月に4羽の鶏を絞めて、1月に皆でそれらしいチキンカレーを食べた。

 今年はダチョウを飼いたいと言い始めた学生がいて、皆熱くなった。世界で一番大きな鳥だ。若鳥の大きさのヒナを3羽、埼玉県のダチョウ牧場から譲ってもらった。大きさにもかかわらず、最も気の弱い神経質な鳥だから素人が飼うには難しいよと言われたが、案の定1カ月後には3羽とも亡くなってしまった。その後烏骨鶏とホロホロチョウを飼っている。

 一からすべてを自分で作ることによって、1皿500円で食べられるカレーライスも結構手間がかかるということが分かる。無駄が多くて効率はよくないが、一から手順をたどることによって、今までなかった気付きに出合うことがあるのだと思う。

BackNumber

(無断転載禁ず)