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本音のエッセイ

314号 宗教学者 内藤 理恵子さん

「地元が楽しい」

宗教学者 内藤 理恵子さん

宗教学者 内藤 理恵子さん

内藤 理恵子/宗教学者

1979年愛知県生まれ。宗教学者、日本ペンクラブ会員。南山大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了、博士(宗教思想)。愛知大学国際問題研究所客員研究員。イラストレーターとしてイラストコラムの連載も。著書『必修科目鷹の爪』(KADOKAWA)他。

 私は愛知県郊外で喫茶店を営む家の一人娘として生まれた。住まいは店舗の2階である。両親は忙しく、店の休業日である月曜日に家族そろって地元の健康ランドに行くことが何よりの楽しみだった。

 中学生になると1時間以上かけて名古屋市内の私立中学に通学した。通勤ラッシュには疲れ果てたが、地元を出て名古屋に行けることで俄然世界が広がった気がした。たまに繁華街に寄り道しておしゃれな小物などを買う。それだけで都会人になった気がした。

 名古屋市内の大学に進学した私は、卒業後は似顔絵師になった。活動の拠点は愛知県郊外の巨大ショッピングモール。大店法廃止によって大型モールが乱立した時期である。娯楽の少ない郊外にできたショッピングモールは毎日がお祭り騒ぎ。私の似顔絵もよく売れた。

 24歳のとき、思うところあって私は似顔絵師を辞め、名古屋市内の大学院に進学した。そして学術大会などにも参加するようになり大都市東京に行く機会を得た。学問の世界では、東京の大学の出身者が大きな力を持っている。頑張って博士号を取得してからも、東京の有名国立大学の現役大学生に、地方大学出身ということで、鼻であしらわれたことも。

 ところが33歳のとき、大学の講義準備のためにアニメの哲学的な解説をブログで展開したところ、インターネットで話題になり、そのアニメの映画化に合わせて本を出版することになった。タイトなスケジュールに合わせるため寝る間も惜しんで本を書いた。本は無事出版され、宣伝も兼ねて東京のラジオ番組に招かれた。東京駅近くの商業ビルでお茶したときは舞い上がった。

 その数年後、再び上京の機会が訪れた。ある月刊誌に掲載された記事がきっかけとなり新しい仕事が入ったのだ。それからは上京の機会が増え東京にも慣れてきた。そして気がついた。いまや地方のショッピングモールの方が、むしろ文化の発信源ではないか。東京のセレクトショップに仰々しく置かれていた同じポーチが地元のショッピングモールに山積みになっていたりするのだ。インターネットの発達によって情報格差も解消されつつある。私の中の大都市コンプレックスは一体何だったのか?未知の世界の影に怯えていただけか。いまとなっては地元がとても楽しい。

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