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本音のエッセイ

310号 イタリアコラムニスト 大矢 アキオさん

カッコよくない?!イタリア

イタリアコラムニスト 大矢 アキオさん

イタリアコラムニスト 大矢 アキオさん

大矢 アキオ/イタリアコラムニスト

東京生まれ。国立音楽大学卒。雑誌編集記者を経て1996年からシエナ在住。NHKテキスト「まいにちイタリア語」をはじめ、イタリア関連雑誌・特集で欠かせない顔に。「Hotするイタリア」(二玄社)「イタリア式クルマ生活術」(光人社)ほか著書多数。NHK「ラジオ深夜便」リポーターとしても14年にわたり活躍中。

 19年前ボクはイタリア好きが高じて東京の出版社を辞め、出発6日前に入籍した女房とトスカーナの中世都市シエナで学生生活を始めた。

 暮らしてみると、日本で「イタリアで大評判」と宣伝されている商品は、大抵知られていないか、時代遅れであることが分かった。当時日本で話題だった円錐形の紙筒に火をつけて耳掃除をするグッズも、そのひとつだった。

 もっと衝撃を受けたのはボクの幻想でもあった「カッコいいイタリア」と相反する事象の数々である。日本の自動車誌でおなじみのスーパーカーなど、3カ月に1度見るか見ないかだ。代わりに人々が運転する日々の足は、ゴミ集積場の横に停めてあると限りなく廃車と見まがうようなクルマだった。服装も日本のファッション誌を飾るブランド物で武装したような人々にはめったに遭遇しない。「イタリア家具」というとすぐ思い浮かべる、モダーンな什器(じゅうき)をそろえている家もまれだった。

 理由は、やがて複数のイタリア人が教えてくれた。「この国は資源に乏しい。あるのは卓越したセンスと職人の腕さ。世界が求めるモノを作って輸出し、地道に食べてゆくんだよ」。

 ただし、そう語る彼らは、けっして卑屈ではなかった。クルマが少々ボロくても、65%のイタリア人が夏休みは自動車旅を選ぶ(2013年ユーロップカー/ドクサ社調査)。いいクルマよりも、クルマでどこに行って遊ぶかが関心事なのだ。

 服も一般の人々は週1度立つ青空メルカートで、いかに安くハイセンスの物を手に入れ着こなすかをゲームのごとく楽しんでいる。家具に関していえば、歴史ある国に住む彼らはストーリーを好む。曽祖父の代から引き継いだ椅子を直しながら使う。家も築数百年の古い廃屋を見つけて10年がかりで修復し、子や孫の家にする。

 当時周囲の人々は、言葉もろくに話せないボクと女房を毎週末のように家へ呼んでは家族同様にもてなしてくれた。そのとき接した、新しいモノをやみくもに追いかける日本とは違うベクトルの豊かさこそが、ボクのイタリア語り部生活の原点である。

 豊かさといえば、あるおじいさんに、ボクがイタリア経済の不振を指摘したときだ。彼は笑いながら言った。「古代ローマから振り返れば、停滞や衰退の世紀が何度もあった。次の世代が生きるころは、きっと上向くさ」。日本で経済を語る一般人で、弥生時代から引き合いに出す人はそうそういない。中世・ルネッサンス建築に囲まれて生活している人間ならではのセンスだ。

 にもかかわらず、スーパーマーケットで人々は入口に1センチでも近いところに駐車したがり、請求書は毎月きちんと舞い込む。豊かな時間感覚と、妙なせっかちさ。イタリアにおける永遠の謎である。

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