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本音のエッセイ

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249号 料理研究家・テーブルコーディネーター 松田 美智子さん

「箸美人」

料理研究家・テーブルコーディネーター
 松田 美智子

料理研究家・テーブルコーディネーター 松田 美智子さん

松田 美智子/料理研究家・テーブルコーディネーター

1955年生まれ。料理研究家、テーブルコーディネーター。「松田美智子料理教室」を主宰。和洋中のジャンルを越えて幅広く指導。楽しく作って、美味しく食べて、体も心も健康をモットーとする。「ぜんぶ、おいしい!うちのごはん」など、料理本多数。


 料理を生業とする私が寂しく思うことの一つに、「箸使い」があります。

 日本人として唯一の食する手段の「箸」。少なくとも1日1回は必ず使う道具は、ナイフやフォークではなく、箸です。日本人がグローバルに活躍するようになった今、ナイフ、フォークが素敵に使えることも大切ですが、まずは、「箸」ではないかと感じます。

 外国人の友人から、耳の痛いことを聞かされます。

 「日本人は自国の文化についてどう考えているのか?」。ナイフやフォークが使えて、箸が使えないのは、日本人としての誇りに欠けるのか、意識が低いのか、理解に苦しむと問われます。外国人から見ると、箸も食事のマナーです。洋食のマナーが完璧で、ワインに詳しい人と和食の席を囲んで、箸使いのまずさに閉口したと聞きます。

 マナーがないということは、クラスが低いと判断するので、いくら仕事ができても、様相が素晴らしくても、その人としての主張に信頼性が持てないとまでいわれてしまいます。

 私もさまざまなところで料理をお教えすることが多くなりました。人数が多いクラスの全員が箸をきちんと使えるということはほとんどなくなりました。時々、「ここは日本?」と思うほどです。

 日本人に何かのかけ違いが起こっているように感じます。鉛筆がちゃんと持てなくても、勉強ができれば良い。箸が握り箸でも料理研究家を目指す人もいます。ちょっと間違っていますよね。

 箸使いの美しい人の料理は、まず作るところを見ていて食したくなります。包丁使いの巧みな人を見ていると、それだけで料理のおいしさは伝わります。箸と包丁が気持ち良く動く人は、往々にして「器用」です。私の年代では、日本人は器用だと誰しもが思っていました。

 外国人より秀でている点。

 小さいころには祖母や母から、「女の子だから、特に気を付けなさい」「箸美人でないとだめですよ」と口やかましく食事のときに注意を受けました。「箸美人」とは箸がきちんと持て、箸使いが正しく、姿勢良く食事をいただくということ。

 今の時代、食卓を家族で囲む時間が少なくなったといわれます。一人で食事をする子どもが多くなったので、食事の仕方も、お汁、ごはん、おかず、と順に食べられない子どももいると聞きます。就職をした後、会食時に、幕の内弁当のお汁だけ、ごはんだけを食べて、最後におかずを一気に食べるのを見て、周りの先輩がびっくりしたという話を聞きます。いつも一人なので、テレビを見ながら、ただ、食べる。味わって楽しむことを知らないなんて、本当に寂しい話です。いくら成績が良くても、食事の仕方からも社会性に欠けるのは問題です。

 女性も、いくら様相に磨きをかけても、食事を共にして玉の輿のチャンスを逃したという話も聞きます。今の世の中こそ、日本人としての良さを活かして、誇りを持って生きたいと感じます。  まずは、お箸をちゃんと持ちませんか。


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