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本音のエッセイ

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211号 女優 原 日出子さん

「人間の物差し」

女優 原 日出子

女優 原 日出子さん

原 日出子/女優

1959年、東京生まれ。テレビや映画などに数多く出演。主な出演作品に「夕焼けのマイウェイ」(劇場映画)、「本日も晴天なり」(NHK朝の連続テレビ小説)、「日本一短い母への手紙」(劇場映画)、「Shall we ダンス?」(劇場映画)、「3年B組金八先生」(TBS)、「69sixty nine」(劇場映画)、「アリスの騎士」(テレビ東京 水曜ミステリー9)、「君はまだ、無名だった。」(劇場映画)などがある。

 あなたの「物差し」は、どんな「物差し」ですか?物差しとは、つまり、物事を計る尺度のことです。何を基準に、「これは良いとか、悪いとか」「こんなことは恥ずかしいとか、恥ずかしくないとか」。世間の人は、どんな尺度を持って、生きているのか……。近ごろの私の、関心事です。私自身、そんなにしっかりとした尺度を持った人間とは言えませんが、近ごろの世の中には、全くといっていいほどモラルが感じられない気がします。何でもありの世の中に、恐ろしさを感じることさえあります。そもそもモラルとは、どこから生まれてくるのでしょうか? 私の場合は、母親の影響が、絶大でした。

 大正生まれの母は、しつけが厳しく、とにかく「人様に迷惑をかけない!」が、基本。「人に不愉快を与えるような行動は慎み、常に謙虚な態度で、周囲の人の意見を聞け!」他人がどう思おうと、わが道を行くのが「自由」なのではなく、社会の一員としての、義務や責任を果たしつつ、協調性を持ちながら、自己の実現をしていくのが「自由」なのだと教えられました。

 もちろん、言うほどに容易いことではないので、日々、精進、というわけです。特に、子どもたちのしつけには神経を使います。きちんと大人になってほしい、と願うからです。大人の形をして、大人ではない人が多い世の中ですから、世間に良い見本を見つけるのは、大変な作業です。

 先日も、子どもたちと地下鉄に乗っていたときのこと。降車駅で扉が開いたので、降りようとしたその瞬間、目の前に、小学校の高学年くらいの姉弟と、母親が、降りる人波の真ん中に飛び込んできて、人をかき分け、われ先にと椅子に座ってしまいました。電車はそれほど混んでいるわけでもなく、降りる人を待って乗っても、十分に間に合ったと思われます。「ママ!信じられない!」と、声を上げたのは、年ごろも近い、私の娘。「親が一緒なのに!」と、続けて息子。ごもっともです。突き飛ばされそうになった、わが子を庇いつつ、同じ母親として、複雑な思いが残りました。

 公共の場で、マナーの悪い人は、大人も子どもも多く見られますが、どうでしょう? 飲酒運転しかり、いじめ問題しかり、子どもの虐待しかり……。自己中心的で、わがままな考えから、人に危害を加えることを、へりくつや言い訳で正当化する人間の「尺度」とは、いったいどんなものなのでしょうか。その「尺度」は、どうやって培われたのでしょうか。

 ほんの少し立ち止まって、自分自身と向き合ってみてはどうでしょうか。家族と、社会と、向き合ってみてはどうでしょうか。自分の物差しは、どんなものなのか……。考えてみてはどうでしょうか。


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