本音のエッセイ

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183号 作家 C.W.ニコルさん

「ずっと考えていること」

作家 C.W.ニコル

作家 C.W.ニコルさん

C.W.ニコル/作家

1940年7月17日生。英国ウェールズ生まれ。17歳でカナダへ渡り、その後、カナダ水産調査局北極生物研究所の技官として、海洋哺乳類の調査研究にあたる。1980年以降、長野県黒姫に居を定め執筆活動をしている。著書には、アニメ映画化され第45回アジア太平洋映画祭でグランプリを受賞した「風を見た少年」や、2002年児童福祉文化財の推薦を受けた「裸のダルシン」、他多数がある。2002年、財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団を設立。

 私は日本人であることを誇りに思い、争いとは無縁の美しい自然に抱かれた暮らしをこよなく愛している。人から―たいがいは日本人だが―日本のどこが好きかと聞かれれば、いつもこう答えている。

 北に流氷を、南には珊瑚礁を抱く自然の多彩さ、そこで育まれた文化の豊かさを愛しているのだ、と。この国では言論や信仰の自由が守られ、好きなところへ旅することもできる。近代以降、アジアにあって植民地化を免れた稀有な存在でもある。そして、太平洋戦争後、二度と同じ悲劇をくり返さないと誓い、それを守り通してきた日本をすばらしいと思う―以前は、必ずそうつけ加えていた。私自身は今も平和な日々を過ごしているが、世界を旅する私には各国に多くの友がいる。英国やカナダ、オーストラリアには、家族や親類もいるのだ。だから、日本がイラクへ自衛隊を派遣したことには心を痛めずにいられない。無論、いちばん責められるべきはアメリカだ。日本がアメリカといい関係を維持すること自体は悪くないが、世界平和への貢献について考えるかぎり、敢えて袂を分かち、別のやり方を選ぶこともできたはずだ。

 たとえば、世界中どこへでも赴くことのできる最新鋭の「病院船」を作ってはどうだろうか。最先端の設備を擁し、世界各地の病院や優秀な医師とコンピュータのネットワークを通じて結ばれた船だ。これならば、戦争で傷を負った者や飢餓に喘ぐ者、病気に苦しむ子どもたちを救うこともできる。要請があれば、ただちに救急車やヘリコプターを出動させ、高度な訓練を受けた専門家を現地へ送り込める体制を整え、さらにはテロリストや海賊の出没する危険な海域へ赴く場合を考え、防衛のための装備と人員も備えておく。

 世界には今も、戦火や苦難の耐えない国がたくさんあるのだ。この病院船ならば、どこへ行っても歓迎されるだろう。世界中から支援の手も差しのべられるに違いない。医師、看護士、医療機器を扱う技術者、船員、学生や一般のボランティア―きっと多くの人が協力を申し出てくれるはずだ。医療を通じて世界に善意の輪を広げ、参加した者には貴重な経験と誇りを与える。ひいては国際社会における日本の評価を一段と高めることにもなるだろう。まさに理想的な船ではないか。

 海外援助に絡む不正や無駄を、私は嫌というほど目にしてきた。また、イスラム世界には、イラク戦争でアメリカ側についた日本に対する怒りや敵意が高まりつつある。銃を握る手で人は救えない。それよりもずっといい方法があることに気付くべきだ。そのとき初めて、私たちは心から平和を楽しむことができるだろう。 2004年6月24日黒姫にて C.W.ニコル(訳・森 洋子)


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